私はあまり視聴したことはないのですが、仮想現実(VR)が日常生活に与える影響は多岐にわたっています。
ついにというか、こんな研究報告がありました。
「VRと香りが食習慣に与える影響について』
元論文はこちら⇨ Benjamin J. Li et al, Exploring the effects of habituation and scent in first-person 360-degree videos on consumption behavior, Scientific Reports (2023).
シンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究チームが、「キャンディを食べる様子をVRで繰り返し視聴させたら、キャンディに対する欲求を減少させた」という報告をしています。
この研究では、VRやAR(拡張現実)のヘッドセット、360度の動画、モーショントラッキングなどの先進技術を用いて、視聴者を動画の中に没入させる「イマーシブビデオ」が用いられました。
その結果、キャンディを食べる動画を30回(!)視聴した視聴者は、キャンディの摂取量が、平均で約3分の1(32%~38%)減少しました。
「食べるのを見せつけられるのだから、余計に欲しくなるんじゃないの?」と思うのですが、キモはその視聴回数にありそうです。
心理学的メカニズムとしては、繰り返し同じ刺激にさらされるのですから、その刺激への反応が減少する、つまり「慣れ」が生じたのではないかということでした。
研究者たちは、このメカニズムを活用して、過食症や食欲の管理に役立てることができるのではないかと指摘しています。
さらに、この研究では視覚刺激に加えて、チョコレートの香りを嗅がせる実験も行われました。
その結果、チョコレートの香りを嗅ぎながら動画を視聴した参加者は、香りがない場合よりも、キャンディの摂取量が11%少なくなったそうです。
このような研究は、食に対する欲求や行動に影響を与える要素が何なのかを明らかにしています。
つまり、視覚、聴覚、嗅覚といった感覚が組み合わさることで、食べ物に対する反応がどのように変わるのかを理解する手がかりとなります。
味覚異常を訴える方が、等しく食欲を落としてしまうのと同様です。
ところで、視聴者が動画を見ている間に何を考えているのか、とても気になります。
もしかしたら、視聴者自身がキャンディを食べていると錯覚しているのかもしれませんね。
それとも、単にうんざりしてしまったとか。
VR(仮想現実)の実験は、とにかく被験者の経験としてはリアルですから、長期的な影響を常に考慮しなければなりません。
「キャンディを見るのもイヤ!」になっていないでしょうか?
だとしたら、一種の拷問に近い気がします。