「観見二つの目」

 

 

宮本武蔵の五輪書は、世界的にも若い信奉者がいるほど、今なお評価の高い書物です。

ご存じの通り、五輪書は「地」「水」「火」「風」「空」の五巻からなります。

そのうちの「水の巻」には「心持」「身なり」「目付」の点から剣術の鍛錬法について詳しく論じています。

その「目付」のなかに「観見二つの目」について書かれたこんな一節があります。

 

目の付やうは、大きに広く付る目也。観見二つの事、観の目つよく、見の目よはく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専也。敵の太刀をしり、聊敵の太刀を見ずと云事、兵法の大事也。

 

(目の付け方は、大きく広く付ける目である。「観・見」二つの目があり、「観の目」を強く、「見の目」を弱く、遠い所を近いように見、近い所を遠いように見ることが兵法では必要不可欠である。敵の太刀の位置を知っているが、少しも敵の太刀を見ないことが、兵法では大事である。)

 

「木を見て森を見ず」という言葉に言い換えることもできますね。

目の前のことにとらわれて、全体の状況が見えていない戒めとして、よく耳にする言葉でもあります。

日常の細々とした業務に追われ、全体としてどこに向かっているのか、どこへ向かおうとしているのかを見極めなければ、今日も忙しいだけで終わってしまった、ということになりかねません。

「遠いところを近く見、近いところを遠く見ること」

そんな大局的な視線を鍛錬したいものです。