手塚治虫先生の「火の鳥」を全巻読んだのは、確か大学生の時に通った漫画喫茶で、だったと思います。
大判のコミックが全巻そろっていて、どの巻が最初でどの巻に続いているのかわからなくて、それぞれがリンクしているものの、ストーリーは一冊で完結していましたから、手に取ったものから順に読み進めていきました。
今から考えると、「未来編」か「黎明編」のどちらかから読み始めていた気がします。
それまで読んできた漫画とは桁違いに「時間軸」が壮大でしたし、個々の生命の終わりと同じように、種の存亡についても描かれる様は圧巻でした。
それを一つのストーリーに統べていたのが永遠の生命を持つ火の鳥の存在でした。時間や場所を超えて俯瞰していた火の鳥の眼差しは、まさに「神の眼差し」と言えました。
「火の鳥」は、手塚治虫先生の作品群に共通して流れるテーマ「生命の尊厳」を描きながら、同時に「救いのない世界」も描いています。
「火の鳥」の世界観は、まさに無数の苦悩に満ち溢れたものです。
けれども、登場人物たちは必死で生きていますし、例えそれが無惨でも善も悪も自分の信じるものに向かっています。
私が幾つになっても惹かれる理由がそれです。
苦悩の世界に生きる人間賛歌の漫画と言えます。