「妹へ送る手紙」

ちょっと落ち込んでいる時、山之口貘さんの詩を読むと、思いがけない励ましの言葉に出会ったような、ちょっとした元気づけをもらいます。

 

詩人の言葉は、怖いぐらいに人の心に影響力があります。

「誰だって、みんな、深い傷を背負って、そ知らぬふりして生きているのだ。」と言ったのは太宰治でした。

獏さんは優しすぎて、そ知らぬふりをするほどには強くないのですね。

肉親への愛情があふれすぎて、その弱さが獏さんらしいと思ってしまいます。

 

 

妹へ送る手紙

 

なんという妹なんだろう

――兄さんはきっと成功なさると信じています。とか

――兄さんはいま東京のどこにいるのでしょう。とか

ひとづてによこしたその音信のなかに

妹の眼をかんじながら

僕もまた、六、七年振りに手紙を書こうとはするのです

この兄さんは

成功しようかどうしようか結婚でもしたいと思うのです

そんなことは書けないのです

東京にいて兄さんは犬のようにものほしげな顔をしています

そんなことも書かないのです

兄さんは、住所不定なのです

とはますます書けないのです

如実的な一切を書けなくなって

といつめられているかのように身動きも出来なくなってしまい

 満身の力をこめてやっとのおもいで書いたのです

ミンナゲンキカ

と、書いたのです。

 

2016-05-01 12.27.51

 

 

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