どの分野でもそうなのでしょうが、特に医学や医療の分野は、知識と技術だけでなく、心の強さも求められます。
そして、最近の医学教育のありようは、かつてとは大きく異なるものになりつつあるのを感じています。
例えば、私がインターンだった頃は、研修医1年目としての日常業務に没頭するしかありませんでした。
患者のその日の検査結果を集め、それをカルテに貼り付け、患者の主治医(ファーストレジデント)に最新情報を伝えるといった「スカットワーク(雑務)」です。
しかし、現在では、これらのスカットワークが教育的価値が低いと見なされ、その重要性や必要性について異なる見解が生まれています。
一部の研修医や教育者は、このような仕事が医学教育において重要な役割を果たすと考えていますが、他の一部は、こうした業務が本質的な学習体験から注意をそらすと考えています。
医学教育の文化は確実に変化していっています。
かつては当たり前だった教育の側面が、今では精神的健康を害すると見なされています。
この変化は、医学分野に限らず、より広い社会的な文化的変化の反映でもあります。
例えば、指導医が学生や研修医に対して否定的なフィードバックを避けるようになったりしています。
このような傾向は、医療教育の質にも影響を与えており、医学生や研修医が実際の医療現場で直面する困難に対処する能力の育成に必要な経験や挑戦が減少する可能性があります。
また、医学生や研修医が過剰なストレスや圧力にさらされることなく、必要なスキルや知識を身につけるための適切なバランスを見つけることが、今後の医学教育の重要な課題となるでしょう。
こうした状況は、医学教育における「必要な不快感」と「不必要な不快感」を区別することの重要性を浮き彫りにしています。
確かに、過度なストレスや不当な要求は避けるべきですが、一方で医療の現場は常に困難に満ちています。
これらを乗り越えるための訓練もまた必要です。
医学教育の現状について、明確な結論を出すことは難しいかもしれません。
しかし、医学教育の質を維持しつつ、研修医の健康を保護するためには、このような区別を正しく行うことが不可欠であると言えるでしょう。
医学教育は常に進化し続けるものです。
新しい世代がその規範を形作る中で、適切なバランスを見つけることが、私たちの共通の課題となるでしょう。
元論文:
Rosenbaum L. Being Well while Doing Well – Distinguishing Necessary from Unnecessary Discomfort in Training. N Engl J Med. 2024 Jan 17. doi: 10.1056/NEJMms2308228. Epub ahead of print. PMID: 38231543.