以前の話です。高齢の女性の方が受診されました。
両膝は変形性関節症で腫れており、痛みがあるので歩けなくなったのだと言います。
最近は膝、腰の痛みに加えて両手の指も痛くなってきたので、ご家族が関節リウマチを心配して一度内科の医者にも診てもらおうと思ってきたのだということでした。
一通り診察したあとに、その方が「先生、一刻も早く治してください。」とおっしゃられました。
高齢ということもあり、医者という職業に対して勘違いされている世代でもあるのでしょう。
悪いところを取り除いたり、修復したりする外科系と違って、特に慢性疾患を扱う私の専門分野では私は「病気を治す」意識はほとんどありません。むしろ持たないようにしているというのが正しいです。
あくまでも患者さんにとって適切な治療を施そうとしているだけです。
私たちは、私たちが推薦した適正な治療を受けて、患者さんの身体が自分自身で治るのだと思っています。
慢性疾患ではありませんが、ウイルス性の風邪などは最たるものです。
「医者には風邪を治せる力はありません。風邪を治す薬もありません。自分自身で治していくのですよ。」
自分自身ですることとは、疲れをためずに十分な休養をとること、水分や栄養のバランスをとること、体を冷えすぎないようにすることなど。
医者が風邪の時に処方する薬は、患者さんが自分自身で治していくまでの、症状を緩和するいわば時間稼ぎの薬です。
「まずは見込み違いの診断にならないように。検査してみて、その後に相談しましょう。」
その高齢の患者さんには、そのようにお伝えしました。