心の時間速度と肉体の治癒速度

 

会議が長引いたりすると、時間はまるで止まっているかのように感じられます。

一方で、楽しい時はあっという間に過ぎ去ります。

私たちの日常は、時計の針の進む「主観的な速さ」に左右されています。

「心身合一」などと言いますが、この時間に対する「心の感じ方」が、私たちの肉体にも実際に大きな影響を与えているのだという研究報告があがりました。

最近の研究によると、私たちの「時間の知覚」が実際に身体の治癒速度を加速させたり遅らせたりすることが示されました。

具体的には、より速く時間が経過したと信じている人々の傷が、実際よりも早く治ることが発見されたのです。

これは、心と体の関係、特に私たちの思考や信念が物理的な健康にどのように影響を及ぼすかを探る興味深い一例です。

確か、漫画「がんばれ元気」で、堀口元気が試合中の出血を何もせずとも自然に止血してしまっていたというシーンがありました。

ところが、これは漫画の話ではありません。

この研究は、33人の参加者を対象に実施されました。

彼らにはカッピング療法を用いて軽度の傷を作り、その治癒過程を観察しました。

研究者たちは参加者に「時間が遅い」「通常」「速い」と感じさせる3つの異なる環境を用意しました。

実際の時間はすべて28分で統一されていましたが、参加者の時間の感じ方を変えることで、その心理状態が身体の治癒にどのように作用するかを観察したのです。

結果は、「速い時間」の条件下で治療を受けた参加者は、「遅い時間」の条件下で治療を受けた人々と比較して、明らかに傷の治癒が早かったのです。

つまり、時間が速く感じられるほど、身体の治癒プロセスが加速することが示されたのでした。

この研究は、心身のつながりを探るものです。

私たちの心理的状態が身体の健康に直接影響を及ぼす可能性があることを強調しています。

昔から言われている「病は気から」や「Fancy may kill or cure.(空想は人を殺しも生かしもする)」という言葉の裏づけがとれた印象です。

そして、ストレス管理やプラセボ効果など、心理的要因が健康に及ぼす影響についての既存の研究を補完するものともなります。

では、私たちはこの情報をどのように活用できるでしょうか?

例えば、ポジティブな心理状態を保つことは、単に気分を良くするだけでなく、身体の健康を促進することを意味します。

また、リラクゼーションや瞑想など、心を穏やかに保つ活動は、時間の経過をより速く感じさせ、結果として健康に良い影響をもたらすかもしれません。

この研究は、私たちが健康を考える際に、身体だけでなく心の健康も同様に重要であることを改めて思い起こさせてくれます。

心と体は切っても切り離せない関係にあり、互いに影響を与え合っています。

したがって、健康的な生活を送るためには、心のケアも忘れずに行うことが大切です。

 

元論文:

Aungle P, Langer E. Physical healing as a function of perceived time [published correction appears in Sci Rep. 2024 Jan 29;14(1):2412]. Sci Rep. 2023;13(1):22432. Published 2023 Dec 17. doi:10.1038/s41598-023-50009-3