蚊との静かな戦い:ウォルバキアを使ったデング熱コントロールの試み

 

ジョグジャカルタはインドネシアのジャワ島にある都市です。

そこでは、デング熱という見えない敵との戦いが続いています。

デング熱は、エイデス・エジプティ(A. aegypti)という小さな蚊によって運ばれる病気です。

科学者たちはこの蚊をコントロールするために、ある興味深い方法を試みました。

それは、ウォルバキア(Wolbachia)という名の微生物を使った新たな作戦です。

 

元論文はこちら→

Utarini A, Indriani C, Ahmad RA, et al. Efficacy of Wolbachia-Infected Mosquito Deployments for the Control of Dengue. N Engl J Med. 2021;384(23):2177-2186. doi:10.1056/NEJMoa2030243

 

この微生物、ウォルバキアはエイデス・エジプティに感染すると、デング熱ウイルスへの感受性が低下するとされています。

研究者たちは、この事実を利用して、ウォルバキアに感染した蚊を意図的に放出し、自然界の蚊の集団にこの微生物を広めようとしました。

ジョグジャカルタでは、その方法がどれほど効果的であるかを評価するために、一大試験が行われました。

この試験は、約311,700人が住む26平方キロメートルの都市地域を舞台に実施されました。

この地域は24のクラスターに分けられ、それぞれがおよそ1平方キロメートルで構成されていました。

12のクラスターにはウォルバキアに感染した蚊が放出され、残る12のクラスターはコントロール群として何も行われませんでした。

各クラスターには9から14回の蚊の放出が行われ、地元住民の多くはこの実験の詳細を知らされていませんでした。

蚊は、人々の家の中や庭にひっそりと放たれ、その後の繁殖でウォルバキアが自然に広がるのを待つのです。

このシンプルだが革新的な作戦は、蚊によるデング熱の拡散を減らすことができるのでしょうか?

試験の結果は、皆の期待に応えるものでした。

ウォルバキアに感染した蚊の導入により、症状を伴うデング熱の発生率が減少し、参加者のデング熱による入院も少なくなったと報告されています。

これは、単に蚊を減らすだけでなく、蚊自体を病原体の伝播者として無効化することに成功したことを意味します。

しかし、この戦いはまだ終わっていません。

デング熱ウイルスがウォルバキアに対して耐性を持つ心配はないのでしょうか?

今後も研究者たちは、ウイルスの進化を監視し、この新たな防御策が長期にわたって効果を持続するかを見守る必要があります。

ウォルバキアの導入は、デング熱との戦いにおける新たな武器として大きな可能性を秘めています。

しかし、その効果を最大限に引き出し、持続させるためには、さらなる研究と協力が必要というわけです。

ジョグジャカルタの試みが、世界中のデング熱対策に新たな希望をもたらす一歩となることを願っています。