散歩の時間、働く時間 ― 体を動かす場面と認知症

散歩の時間、働く時間 ― 体を動かす場面と認知症

 

外来で「できる範囲で運動しましょう」と患者さんにすすめる場面は少なくありません。

「仕事でずっと動いているんですよ」と返されて、言葉につまることもあります。

仕事中でもウォーキングでも、歩数計に表示されるのは一日の歩数です。

けれども、身体活動と認知症の関係が語られるとき、この違いはどこまで区別されているのでしょう。

 

身体活動と認知症については、活動の総量や余暇の運動を調べた研究が多くあります。

しかし、体は仕事や家事、通勤でも動かします。

ナタン・フェターさんらの研究チームは、活動する場面を分けて、これまでの研究をまとめ直しました。

 

分析に含まれたのは30か国の74研究、約423万人です。

対象は20歳以上で、開始時に認知症や、その診断には至らない軽度認知障害のある集団は除かれています。

研究ごとの追跡期間の中央値は10年でした。

活動量は主に本人の申告で調べ、それぞれの研究で、活動の少ない人たちを基準に、それより活動の多い人たちの認知症リスクを比べています。

認知症の判定には、診療記録や医療者の評価などが用いられました。

 

仕事の分析では、退職者や働いていない人を活動の少ない側に混ぜず、就業者同士の比較を優先しました。

働いているかどうかによる健康状態の違いを、仕事の活動量の違いと混同しないためです。

同じ運動量の人に余暇か仕事かを割り当てた実験ではなく、それぞれの暮らしの中で見られた関連を集めたものです。

 

余暇の活動を調べた20研究では、活動が多い人たちの認知症リスクは0.76倍、つまり24%低いという結果でした。

仕事の活動を調べた5研究では、逆に20%高いと推定されました。

推定には幅があり、余暇では12〜35%低い範囲、仕事では1〜42%高い範囲でした。

いずれも、その領域で活動が少ない人たちに対する相対的な違いです。

家事や通勤の研究は、それぞれ1件と2件にとどまりました。

 

仕事中の活動には、その職場で過ごす条件も伴います。

研究者は、心理的ストレス、作業を自分で調整できる程度、有害な環境への曝露、経済的な条件などが、今回の関連に関わる可能性を挙げています。

体を動かすこと自体が原因なのか、そうした背景が関係するのかは、まだ分かりません。

余暇の運動をする時間の確保も、仕事や暮らしの条件と切り離せません。

 

年齢や教育などを統計上考慮した研究でも、余暇では低く、仕事では高いという方向はおおむね残りました。

ただし、研究ごとの結果のばらつきは大きく、一部の研究を外すと差を明確に絞れない場合もありました。

認知症の診断に先立つ変化で活動が減った可能性も残ります。

研究者は、証拠の確かさを「低い」から「非常に低い」と評価しています。

研究の93%は高所得国で行われ、他の生活環境へそのまま当てはめられるとは限りません。

認知症の種類ごとに見ると、余暇や仕事との関係を明確に絞れない結果もありました。

 

散歩の途中なら、気に入った景色の前で足を止めることもできます。

仕事中に同じ道を歩いていても、先には終えるべき作業があります。

 

参考文献:

Feter N, Iso-Markku P, Markarian T, et al. Domain-specific physical activity levels and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis. Lancet Public Health. 2026;11(9):e650-e664. doi:10.1016/S2468-2667(26)00142-8

 

 

紹介した論文とブログの内容を、ポッドキャストやYouTube動画にしてみました。あわせてお楽しみください。