アリの世界をのぞき見るとき、私たちは個体よりも集団としての動きに目を奪われがちです。
分業しながら協力して暮らすアリには、動けなくなった仲間を助ける種類もいます。
砂漠アリの一種、カタグリフィス・ニグラもその一つです。
同じ巣の仲間を糸で拘束した実験では、その周囲の砂を掘る個体がいる一方で、近くまで来ても救助しない個体がいました。
救助には時間や体力がかかり、助ける側も危険にさらされます。
その行動に加わる個体は体が大きいのでしょうか。
それとも、仲間の出す刺激への反応が違うのでしょうか。
ドイツとイスラエルの研究チームは、このアリの体の特徴と、脳や触角の遺伝子の使われ方を比べました。
研究チームは7つの巣から働きアリを集めました。
砂を敷いた区画で同じ巣の仲間を糸で拘束し、最初の一匹が入ってから15分間、動きを追います。
その間に仲間を引く、かむ、周囲を掘る動作を5秒以上したアリと、半径5cm以内に来ても救助しなかったアリを比べました。
区画全体の平均速度や移動距離には、救助したかどうかによる明確な差が見つかりませんでした。
別の巣のアリで測った体格や脂肪の蓄えでも同様でした。
仲間への接近時間を救助した20匹としなかった11匹で比べると、半径5cm以内へは救助した群が平均約3分早く到達しました。
近くではゆっくり動き、仲間の周囲をより広く探索していました。
早く近づくことと、その場で動き方が変わることが、救助した群で重なっていました。
遺伝子の使われ方は、7つの巣から選んだ28匹で調べました。
同じ巣で同じ反応を示した2匹分ずつの組織をまとめ、脳の3部位と触角で、遺伝子の情報を写したRNAの量を測ります。
その量を比べることで、救助した群でどの遺伝子がより多く使われていたかを調べました。
巣ごとの違いを考慮した解析で、発現差を検出したのは脳の2部位でした。
視覚の情報を扱う部位では1個、さまざまな感覚の情報をまとめる部位では15個の遺伝子に由来するRNAが、救助した群で多く見つかりました。
研究者たちは、仲間の出す刺激に反応しやすいアリほど、早く近づいて救助に加わるのではないかと考えています。
発現が高かった15個には、免疫に関係する遺伝子も含まれていました。
免疫関連の遺伝子の一部は、神経の反応を調節する働きも担います。
研究者たちは、こうした働きが、仲間からの情報を受け取って行動に移す過程に関わる可能性を挙げています。
行動後のRNA量を比べた研究なので、発現の違いが救助を引き起こしたかまでは確かめていません。
実験のアリには、一匹ずつ、胸に色と番号のついた小さな札が貼られていました。
その番号を追うと、糸をかむ姿だけでなく、仲間のそばへ至る動きも見えてきます。
救助したアリは早く近づき、近くでは足取りを緩めていました。
集団として見ていた「仲間を助けるアリ」に、一匹ずつの近づき方が見えるようになりました。
参考文献:
Jaimes-Nino LM, Bar A, Scharf I, Foitzik S. Transcriptional predictors of rescue behaviour in ants. J Exp Biol. 2026;229(14):jeb252086. doi:10.1242/jeb.252086

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