健康診断の結果に背中を押されて、歩き始める。
運動不足が気になって、近所をひと回りしてみる。
走るきっかけは、そんな身近なことだったかもしれません。
初めは少し走るだけで息が上がっていたのに、歩いたり走ったりを続けるうちに、走れる距離が延びていきます。
自信がついて、マラソン大会への参加を考える人もいます。
初めての大会では完走が目標でも、次はもう少し速く走りたい。
記録を伸ばそうと、仕事や家事の合間に練習時間をつくります。
走る距離を増やすか、速いペースの練習を取り入れるか。自分で計画を組むランナーには、練習をこなすことに加えて、その方法を選ぶ仕事もあります。
ほかの人が記録を伸ばした練習法を知っても、それが今の自分にも合うかは分かりません。
「この練習を続けていて、もっと速くなれるのか」。
走ることが習慣になったあとにも、練習方法をめぐる迷いは残ります。
よりよい練習計画をどうつくるかは、研究者たちが取り組んできた課題でもあります。
計画を難しくするのは、同じ練習をしても、体力の伸び方や疲労からの回復が人によって違うことです。
睡眠や日々のストレスも、練習への反応に関わります。
先週はこなせた練習が、今日はきつい。
走る距離やペースを決めても、その日の体がどんな状態かまでは、予定表に書き込めません。
フィンランドのユヴァスキュラ大学の研究者たちは、回復と走りの状態を確かめながら練習計画を調整すれば、あらかじめ決めた計画に従うよりも走力を伸ばせるのかを調べました。
自分に合う練習を考える際に、始める前の体力や練習経験に加えて、実際に練習したあとの体の反応も取り入れようとしたのです。
2022年に発表されたこの試験では、週4回以上走る習慣のある市民ランナー40人を募集しました。
準備期間を経て参加者を無作為に二群へ分け、12週間の練習を比べています。
両群とも、それまでの練習量や頻度に合わせて計画を立てました。
一方は、回復のために練習を軽くする週も組み込んだ事前の計画に従います。
もう一方は週2回、体の状態を確かめ、その後の練習時間や高強度の練習回数を調整しました。
たとえば、同じ速さで走っているのに、いつもより心拍数が高い。
そんな変化も、走りの状態を知る材料になります。
研究チームは、走る速さと心拍数の関係に加え、睡眠中の心拍の間隔の揺らぎも調べました。
この揺らぎには、自律神経の働きが反映されます。
どちらも本人の過去の値と比べました。
ただ、心拍の記録だけでは、筋肉の回復までは分かりません。
そこで、本人が感じる疲労や筋肉痛も、全員に共通する基準で確かめました。
測定した値と本人の感覚を合わせて、次の練習を増やす、保つ、減らすと判断したのです。
12週間後、10kmのタイムは両群で短くなりました。
前後の比較ができたのは、調整する群16人、事前の計画に従う群13人です。
各人のタイム短縮率を平均すると、それぞれ6.2%と2.9%でした。
研究開始前の成績の違いを考慮した比較でも、調整した群の改善が大きくなっていました。
個人ごとの伸びには幅がありますが、計画を更新しながら練習した群で、より大きな改善が見られたのです。
平均の練習量や、楽な強度ときつい強度に使った時間の割合は、両群で近い値でした。
ただ、個人ごとの計画を見ると、調整する群には、事前の計画より練習が多くなった人も、少なくなった人もいました。
期間全体の平均だけでは、こうした違いは見えません。
最初に自分向けの計画を立て、走ったあとの反応を確かめて、次の練習を組み直す。
今回確かめたのは、この調整を繰り返す方法全体です。
心拍の記録や本人の感覚が、それぞれどのくらい改善に役立ったかまでは分けられません。
一方、ランニングマシンで徐々に速度を上げるテストでは、最高速度の伸びに明確な群の差はありませんでした。
また、けがや病気で参加を続けられなかった人や、予定した練習を十分に実施できなかった人などもいて、40人全員の結果ではありません。
対象は、すでに走る習慣のある人たちです。
走り始めたばかりの人や、フルマラソンでも同じ調整が役立つかは、これから確かめる課題です。
この試験で計画を見直したのは、毎週月曜と木曜でした。
どちらも休養か軽い運動をする日です。
直前までの走りと回復を確かめながら、次の数日分を組み直す。
練習表を書き直す時間は、走るのをいったん緩める日に組み込まれていました。
参考文献:
Qin, G., Lee, S. & Kim, S. Machine learning-based personalized training models for optimizing marathon performance through pyramidal and polarized training intensity distributions. Sci Rep 15, 41516 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-25369-7

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