目の前で人が倒れたとします。
119番に電話をかけます。
通報を終えても、サイレンはすぐには聞こえません。
救急隊が到着するまでの時間は、永遠にも思える空白です。
日本の研究チームは、2010年から2023年までの全国データを使い、目撃された院外心停止のうち、心臓が原因と確定または推定された例を調べました。
対象は65歳以上で、救急隊による蘇生を受けた25万9851人です。
救急隊自身が目撃した心停止は含まれません。
目撃から救急隊員が心肺蘇生を始めるまでの記録時間と、30日後に意識があり、身の回りのことを自分で行える程度の脳機能と判定された人の割合を年齢別に比べました。
研究チームは1%を解析上の基準に置き、記録時間がある時点以上だった人たちの転帰を1分ごとに計算しました。
その割合が1%を下回る最初の時点は、65~74歳で14分、75~84歳で11分、85~94歳で2分、95歳以上で0分でした。
4つの数字だけを見ると、高齢になるほど心停止後の1分が重くなり、脳が耐えられる時間も短くなるように見えます。
しかし、この研究は1分の影響が年齢によって違うかを直接比べておらず、脳の低酸素への耐性も測っていません。
境界の時刻は、時間とともに割合が下がる速さだけでなく、各年齢群の割合が最初にどの高さだったかにも左右されます。
95歳以上では、1万7120人のうち、30日後に良好な脳機能と判定されたのは50人、0.3%でした。
0分地点には、この年齢群の全員が含まれます。
時間が進んで1%を横切ったのではなく、曲線は最初から1%より下にありました。
0分は、可能性がゼロになった時刻でも、すぐに蘇生しても意味がないという結果でもありません。
同じ95歳以上でも、30日生存は178人、約1.04%でした。
出発時点では1%をわずかに上回り、生存についての境界は3分になりました。
ただし、論文が報告した幅は0~6分です。
85~94歳の2分にも0~4分の幅がありました。
これらは時計に刻まれた締切ではなく、幅をもつ集団の推定値です。
救急車が来てからが、蘇生の始まりとは限りません。
この研究では、救急隊が心肺蘇生を始める前の時間に、対象者の半数以上が市民による蘇生を受けていました。
研究が「ノーフロー時間」と呼んだものは、胸骨圧迫がまったく行われなかった時間ではなく、目撃から救急隊による蘇生開始までの記録時間です。
時刻は目撃者の記憶をもとに記録され、年齢別の曲線も調整前の観察値です。
日本では現場での蘇生中止が原則認められず、ほぼ全例が搬送されるため、別の救急制度へそのまま移せる数字でもありません。
さらに、長い記録時間がその後の蘇生継続の判断に影響していれば、生存可能性は実際より低く記録されたかもしれません。
1%は個人の蘇生をやめる線ではありません。
サイレンが届く前の時間は、空白ではありません。
このデータでは、対象者の半数以上にすでに市民の手がありました。
そして95歳以上の曲線の0分地点にも、30日後に良好な脳機能と判定された50人が含まれていました。
参考文献:
Kishihara Y, Kashiura M, Yasuda H, et al. No-Flow Duration and Outcomes After Cardiogenic Out-of-Hospital Cardiac Arrest in Older Adults. JAMA Netw Open. 2026;9(9):e2631343. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.31343

紹介した論文とブログの内容を、ポッドキャストやYouTube動画にしてみました。あわせてお楽しみください。
