マインドフルネスで調子を崩すということ ― 「起きた」と「起こした」のあいだ

マインドフルネスで調子を崩すということ ― 「起きた」と「起こした」のあいだ

 

瞑想や坐禅で調子を崩すことは、新しい話ではありません。

私は長く瞑想に関心を持ち、白隠禅師が経験したという「禅病」についても、これまで詳しく調べてきました。

白隠は厳しい修行のさなかに心身の調子を崩し、白幽仙人から教わった内観の法と軟酥(なんそ)の法で調子を取り戻したいきさつを『夜船閑話』に記しています。

どちらも、私自身が参考にしている方法です。

 

ただし、今回の研究でいう「症状悪化」は、禅病や、瞑想中に生じるさまざまな困難を指す言葉ではありません。

これまでに行われた別のマインドフルネス認知療法(MBCT)の研究では、参加者本人が「瞑想によって悪い影響を受けた」と答えた例も報告されていましたが、MBCTを受けなかった人との比較がありませんでした。

比較がなくても、つらい経験をした人がいたことは変わりません。

けれども、それがMBCTを受けたために増えたのかを確かめるには、受けなかった人との比較が要ります。

 

研究チームが調べたのは、反復性うつ病が寛解または部分寛解にある成人1,258人です。

9件の無作為化試験から個人データを集め、596人がMBCT群、662人が対照群でした。

ベック抑うつ質問票の点数が治療後に一定以上増えた場合を「症状悪化」としました。

その境目は、各試験の治療前得点のばらつき(標準偏差)の0.24倍です。

瞑想中のつらさや、うつ病の再発を数えたのではなく、質問票に表れた抑うつ症状の変化を数えました。

 

治療後の質問票にも回答した人を見ると、悪化の基準を満たしたのはMBCT群で534人中120人、22.5%でした。

対照群では597人中199人、33.3%です。

MBCT群の120人は無視できませんが、22.5%だけを見て、全員がMBCTのために悪化したとも言えません。

 

単純に人数を数えると、MBCT群のほうが100人あたり約11人少ない計算です。

しかし、研究者があらかじめ主な判定方法と定めていた分析では、MBCT群で確かに少ないとまでは言えませんでした。

別のまとめ方ではMBCT群のほうが少ないという結果も出ましたが、抗うつ薬や心理教育を受けた人たちと比べると、差ははっきりしませんでした。

少なくとも、MBCTが症状悪化を増やしたという結果は出なかったのです。

 

この研究の範囲では、MBCTが治療後の抑うつ症状を悪化させた証拠は見つかりませんでした。

とはいえ、これだけでMBCT全体を「安全」と断定するのは行きすぎです。

調べたのは治療後の抑うつ症状です。

実践中の一時的な苦痛、抑うつ以外のつらい体験、長期的な影響までは扱っていません。

対象者も、反復性うつ病が寛解または部分寛解にある成人に限られています。

 

何かをしたあとに起きたことと、それをしたために増えたことは同じではありません。

33.3%と比べて初めて、22.5%の意味が見えてきます。

 

参考文献:

Goldberg SB, Simonsson O, Warren FC, et al. Symptom Worsening in Mindfulness-Based Cognitive Therapy. JAMA Netw Open. 2026;9(8):e2629946. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.29946

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。