運転中に音楽をかけるのは、ごく普通のことです。
交通事故の危険といえば、雨や雪、夜道、飲酒運転などがまず浮かびます。
こうした危険は目につきやすく、運転者も十分に警戒します。
ところが、晴れた道で好きな音楽を選ぶとき、危険だという感覚はあまりありません。
その操作で、注意が運転からそれることはないのでしょうか。
スマートフォンが普及し、車内でも音楽配信サービスで好きな曲を聴けるようになりました。
通話やメッセージが運転の注意をそらすことは知られていますが、公道でわざと選曲させ、事故が増えるかを調べることはできません。
そこでハーバード大学などの研究チームは、人気アーティストの新作発売日にSpotifyの再生回数が大きく増えることを利用しました。
対象は、2017年から2022年に発売初日の再生数が多かった上位10作です。
発売日と前後10日ずつについて、Spotify上位200曲の米国内の再生回数と、全米の1日当たり交通死亡者数を比べました。
二つの資料をつなぐのは、聴いた人でも事故の当事者でもなく、日付だけです。
研究チームが考えた流れは、新譜発売で再生が急増し、運転中のスマートフォン操作が増え、交通死亡者数も増える、というものです。
しかし、調べたのは発売日、再生回数、交通死亡者数だけで、真ん中のスマートフォン操作は測っていません。
ここは研究者の仮説で、この研究では確かめていません。
上位200曲の再生回数は、前後の日には1日平均8610万回、発売日には1億2330万回でした。
発売日の方が43%多い計算です。
ただし、上位10作は発売初日の再生数で選ばれています。
この43%は、発売日に再生が大きく伸びていたことを確かめた数字です。
祝日や曜日、時期、年による違いを計算に入れると、交通死亡者数は前後の日の1日平均120.9人に対し、発売日は139.1人と見積もられました。
差は18.2人、15.1%です。
ただし、この差の95%信頼区間は4.8~31.7人と広く、発売日ごとに必ず18人増えたという話ではありません。
特定の18人の死因が音楽だったとも言えません。
アルバムの多くは金曜日に発売されます。
金曜日を10日ずつ無作為に選ぶ比較を1000回繰り返すと、実際の発売日以上の差が出たのは20回でした。
同じ月日を別の年で調べても増加は見られず、上位5作から25作まで選び方を変えても、発売日に多い傾向は続きました。
金曜日や旅行の多い時期、上位10作という区切りだけでは説明しきれません。
ただし、発売日に別の催しや移動が重なっていた可能性は残ります。
10作のうち9作では、同じ曜日の比較日より発売日の死亡者数が多くなっていました。
ただ、どれも同じ程度に増えたわけではありません。
この研究に添えられた論説では、同じアーティストの2作品でも、一方は8%、もう一方は67%と、8倍以上の開きがありました。
全体の平均が15.1%でも、次の発売日に何人増えるかまでは分かりません。
事故の当事者がSpotifyを聴いていたか、スマートフォンや車載画面を操作していたかは分かりません。
音楽そのもの、発売日の宣伝や集まり、交通量の変化など、別の理由も考えられます。
発売日を目印に調べると、再生回数と交通死亡者数は同じ日に増えていました。
研究で分かったのは、そこまでです。
その日、車内で何が起きていたのかを示す記録はありません。
参考文献:
Patel VR, Worsham CM, Liu M, Jena AB. Smartphones, Online Music Streaming, and Traffic Fatalities. JAMA Netw Open. 2026;9(8):e2629282. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.29282
Redelmeier DA, Zipursky J. Driving Under the Influence of Pop Music. JAMA Netw Open. 2026;9(8):e2629214. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.29214

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
