座るのをやめて、立った ― えっ、まだ動けって?

座るのをやめて、立った ― えっ、まだ動けって?

 

座りすぎは健康に良くない――そんな話を何度も耳にしてきました。

何年か前、テレビを見ている時間を座っている時間の目安にして、長い人ほど健康を損ないやすいという論文を読んだ記憶もあります。

ならば、座っている時間をそのまま立つ時間に置き換えれば、座りすぎの害は打ち消せるのではないか。

オフィスに昇降式デスクが置かれるようになったのも、そんな期待からなのでしょう。

 

以前の研究には、座る時間と立つ時間を区別できないものがありました。

また、立ったときの血圧低下や脚の静脈の病気も、ほかの心血管疾患とひとまとめにされていました。

英国の研究チームは、座る時間と立つ時間を別々に測り、病気も二つの群に分けました。

冠動脈疾患、脳卒中、心不全をまとめた「主要な心血管疾患」と、起立性低血圧、下肢静脈瘤、慢性静脈不全、静脈性潰瘍をまとめた「起立性循環疾患」です。

 

UKバイオバンクの参加者は、手首に加速度計を7日間つけました。

その記録から、座っていた時間、立っていた時間、歩いたり走ったりした時間を割り出し、その後を平均6.9年追いました。

起立性循環疾患については83,013人、主要な心血管疾患については75,897人を調べました。

 

主要な心血管疾患では、立っていた時間との関連は見つかりませんでした。

年齢と性別の違いだけを計算に入れた補足分析では、立つ時間の長い人ほど発症が少ないように見えました。

ところが、生活習慣、体格、学歴の違いも計算に加えると、その差は消えました。

つまり、立つ時間が長い人の発症が少なく見えたのは、立っていたからというより、生活習慣や体格などが違っていたためかもしれません。

 

起立性循環疾患では、研究チームはデータをもとに1日2時間を解析の目安にしました。

それを超えた範囲では、立っている時間が30分長くなるごとに、追跡中の発症リスクが平均で11%高いという結果でした。

これは相対的な差で、推定には5〜18%の幅があります。

この2時間は、危険と安全を分ける線ではありません。

座位では、同じように1日10時間を解析の目安としました。

それを超えた範囲では、座っている時間の長い人ほど、どちらの病気群でも発症が多くなっていました。

解析では、歩行・走行時間、体格、生活習慣に加え、座位時間と立位時間の両方を計算に入れています。

 

少なくとも、座る時間をそのまま立つ時間に替えればよい、という考えは裏づけられませんでした。

研究者は、座っていても立っていても、歩かなければ脚の筋肉が十分に動かず、静脈の血液を心臓へ戻す働きが弱まると考えています。

そのため血液が脚にたまりやすくなり、起立性循環疾患の発症と結びつくのではないか、という説明です。

筋肉や血流は測っていないため、この仕組みは結果を説明する仮説にとどまります。

 

この研究は、ふだんの姿勢と、その後に病気を発症したかどうかを比べた観察研究です。

立つこと自体が病気の原因なのか、座る30分を立つ30分へ替えればどうなるのか、立ち机が健康にどう影響するのかまでは分かりません。

手首の装置では、座位と立位を取り違えることがあります。

「起立性循環疾患」も、成り立ちの異なる4つの病気をまとめたものです。

参加者は平均61歳で大半が白人だったため、別の年代や人種にも同じ結果が当てはまるとは限りません。

 

椅子を離れた足が床の同じ場所に残るとき、座位は終わっています。

それでも、足が次の一歩を踏み出すまでは、もう一つの「動かない時間」が続いています。

 

参考文献:

Ahmadi MN, Coenen P, Straker L, Stamatakis E. Device-measured stationary behaviour and cardiovascular and orthostatic circulatory disease incidence. Int J Epidemiol. 2024;53(6):dyae136. doi:10.1093/ije/dyae136

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。