4.94対4.94 ― 痛みの点数と鎮痛薬のあいだ

4.94対4.94 ― 痛みの点数と鎮痛薬のあいだ

 

医療機関では、「今の痛みを0から10で表すと、いくつですか」と尋ねることがあります。

0は痛みなしです。

この数値評価尺度は、目に見えず本人にしか分からない痛みを、医療者と数字で共有するためのものです。

救急現場では、その数字をもとに、鎮痛薬を使うかどうかを短時間で判断します。

 

慢性痛の診療では、女性と男性で、受ける治療に差があることが以前から報告されていました。

しかし、急な痛みに短時間で対応する救急現場でも、同じ差があるかは分かっていませんでした。

2026年、ドイツの研究チームは、ヘリ救急の出動記録を調べました。

患者が伝えた痛みの数字が同じくらいなら、鎮痛薬が使われた割合も、女性と男性で同じなのか。

救急医に判断の理由を尋ねるのではなく、過去の出動記録から、実際に鎮痛薬が使われたかを比べました。

 

2012年1月から2025年6月までの34万1152件の記録から、18歳未満、気道管理を受けた人、痛みが0点だった人や点数の記録がない人、意識障害の強い人などを除き、10万6888件を調べました。

記録上、女性は4万1115件、男性は6万5773件です。性別は身分証明書の記載で分け、女性と男性を比べました。

ここで数えているのは人ではなく、1回ごとの出動記録です。

 

最初に並ぶ数字は、4.94対4.94でした。

救急医が最初に痛みを評価したときの平均点です。

軽度、中等度、重度の割合もほぼ同じでした。

ところが、何らかの鎮痛薬が使われた割合は、女性62.0%、男性66.9%。

女性のほうが4.9ポイント低い値でした。

オピオイドは女性50.0%、男性57.1%で、差は7.1ポイントに広がりました。

鎮痛薬を投与された割合は、痛みの強さで分けても、外傷の有無で分けても、女性のほうが低いままでした。

 

ただ、女性と男性では、症例の内訳も違います。

女性は平均年齢が6.4歳高く、外傷の割合は10ポイント低く、救急時の重症度にも差がありました。

ですから、この数字だけを見て、女性だから鎮痛薬が使われにくかったとは言い切れません。

それでも、痛みの平均点と分布がよく似ていた2群で、鎮痛薬が使われた割合には差がありました。

 

では、鎮痛薬が使われる割合に差があっても、痛みの下がり方は同じだったのでしょうか。

搬送先へ引き継いだ時点では、痛みの分布に大きな違いはありませんでした。

最初の点数ごとに痛みが下がった幅を比べても、男女差は最大0.08点でした。

ただし、これは鎮痛薬が使われた症例だけではなく、全症例をまとめた数字です。

引き継ぎ時の記録がよく似ていたことは分かりますが、男女で痛みの下がり方が同じだったとまでは言えません。

 

この研究で分かるのは、主に鎮痛薬が使われたかどうかです。

投与量や時期、投与できない事情、患者の希望までは報告されていません。

痛みの点数が記録されていなかった3万3599件や、意思疎通の難しい重症例も解析から除かれています。

必要な鎮痛薬が使われなかったのか、医学的な理由で使わなかったのかを判断するには、診療経過の記録が必要です。

 

痛みの数字は、患者が感じている痛みの強さを表したものです。

その数字から薬を使うまでの間には、医療者の判断があります。

この研究でそろわなかったのは、最初の数字ではなく、その次でした。

 

参考文献:

Schmidt, A., Busch, HJ., Huebsch, L. et al. The gender pain gap in prehospital analgesia: the role of patient and provider gender – an analysis of 106,888 helicopter emergency medical service (HEMS) missions. BMC Med 24, 426 (2026). https://doi.org/10.1186/s12916-026-05131-0

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。