「She’s a Woman」 ― 短く切れるギター、長く動くベース

「She’s a Woman」 ― 短く切れるギター、長く動くベース

 

ギター教室の8月の課題曲は、The Beatlesの「She’s a Woman」にしてもらいました。

7月の「The Night Before」に続き、今月もビートの効いた曲を弾きたかったのです。

もちろん、ジョン・レノンのカッティングへの憧れもありました。

ところが、演奏を追って聴くと、そのカッティングは鳴った瞬間だけでなく、音が消えた直後にも仕事をしていました。

ジョンがコードを切ったあと、ポール・マッカートニーのベースが次の拍まで長く残っているのです。

 

この曲が録音されたのは1964年10月8日です。

ポールは、リトル・リチャードの曲で使っていた高音のシャウトを、カバーではなく自分の曲へ持ち込みたかったと振り返っています。

その朝にできていたのは約1節だけで、残りはEMIスタジオで仕上げました。

録音は午後2時30分から6時まで。7テイクを重ね、テイク6を土台にピアノ、打楽器、追加の歌とギターソロを加えています。

のちに「I Feel Fine」のB面となりましたが、そのA面が録音されたのは10日後でした。

 

完成版を高速の4拍子で数えると、ジョンのギターは主に2拍目と4拍目にコードを置き、すぐに音を止めます。

リンゴ・スターのスネアもほぼ同じ場所で鳴ります。

ギターは和音を敷き詰める楽器ではなく、スネアにもう一つ硬い打撃音を足す役を担っていました。

 

冒頭8小節の前半では、短いコード音ばかりが先に聞こえます。

低音も明確な1拍目もないため、拍の位置を取り違えやすいのです。

後半でベースとドラムが入ると、先ほどまでのコードが2拍目と4拍目だったことが分かります。

さらに第1ヴァースではピアノがほぼ退き、第2ヴァースから歌に応じるように加わります。

同じ曲の中で、楽器が入る時刻をずらしているわけです。

 

空いた場所で動くのがポールのベースです。

ルート音を刻むだけでなく、音を長く保ち、経過音を通って次のコードへ先回りします。

ポールは1991年、ジョンのギターがスネアと一緒に短く鳴ったため、ベースが自由になったと振り返っています。

大きなベースを後から押し込んだというより、ほかの楽器が長く居座らなかったから、その動きが前に出ました。

 

曲の骨組みも簡素です。

ヴァースは12小節ブルースを24小節に引き延ばし、ブリッジはわずか4小節。ギターソロと終盤だけが標準的な12小節ブルースになります。

ブリッジ以外で使うコードもほぼ3種類です。

和音を増やさないぶん、音の長さと出入りの違いが聞き取りやすくなっています。

 

リードギターも鳴り続けません。標準的な演奏クレジットでは、ジョージ・ハリスンはソロ部分だけを後から録音し、ほぼ同じ演奏を2回重ねました。

12小節だけ音の層が厚くなり、終われば再び歌とベースを中心にした配置へ戻ります。

 

ただし、4本の録音トラックへの正確な割り振りや、冒頭のコード音が二重のギターなのか、ピアノも重なっているのかは、資料だけでは確定できません。

「空白を設計した」という言葉が当時の制作記録に残っているわけでもありません。

それでも、短く切れるギター、第2ヴァースまで待つピアノ、拍と拍の間を渡るベースは、完成した録音から確かめられます。

 

ギターのコードが消えた直後にも、曲の勢いは落ちません。

そこには、次の拍まで音を保つベースが残っています。