人混みで待ち合わせの相手を探すとき。
あらかじめ聞いていた服の色を手がかりにします。
その色で人混みをふるいにかけ、知らない顔を見送って、やっと相手を見つけます。
後日、偶然その場にいた別の知人から、「あのとき合図したのに」と言われたことがあります。
正面にいて、目も合った気がしたそうです。
けれど、私にはまったく記憶がありません。
注意と見落としの関係は、1970年代から動く映像で調べられてきました。
二つのバスケットボール場面を半透明に重ね、一方のチームのパスだけを数えさせます。
傘の女性が横切っても、多くの人が報告しませんでした。
ただ、半透明の映像は現実の見え方とは違います。
パスを数えることに注意を向けたために見落としたのか、それとも映像が不自然だったためなのかは、この方法だけでは分かりませんでした。
1999年、心理学者のダニエル・シモンズとクリストファー・チャブリスは、重ね合わせをやめても同じことが起こるかを調べました。
分析に含まれた192人の大半は大学生でした。
白シャツと黒シャツの3人ずつが75秒間パスを回し、参加者は指定されたチームのパスを黙って数えます。
開始から44~48秒後に、傘の女性か、黒いゴリラの着ぐるみを着た女性が、5秒かけて選手の間を横切りました。
映像は三つの場面を半透明に重ねたものと、7人を一度に撮ったものの2種類、数え方も2通りで、16条件に12人ずつでした。
見終えたあとで段階を追って尋ねても、192人のうち88人は横切った人物を報告しませんでした。
7人を一度に撮った映像でも、3人に1人が報告していません。
重ね合わせの不自然さだけでは説明がつきませんでした。
パスをまとめて数えた条件では64%、空中を通るパスと床で弾むパスを別々に数えた条件では45%が報告しています。
数え方が二重になった側のほうが、報告は少なくなりました。
ゴリラ条件の96人を、映像と数え方の4通りが同数ずつ入るようにそろえて比べます。
黒シャツを追っていた48人のうち28人、58%がゴリラを報告しました。
白シャツを追っていた48人では13人、27%です。
パスを数えるうえでは無関係なはずの着ぐるみの色が、追っていたシャツの色とそろった側で、報告は2倍を超えました。
ただし、各群48人の比較であり、差の幅を示す信頼区間は論文に示されていません。
傘の女性を報告したのは、黒シャツ側の48人中30人、白シャツ側の48人中33人でした。
著者らは、思いがけず現れた人物が、目で追っている相手と色などの点で似ていると、気づかれやすくなると考えました。
ゴリラと傘の女性は、色のほかに形も大きさも意味も違い、両者のチーム差を直接比べた解析は示されていません。
見えてはいたが、すぐに忘れただけだという説明も立ちます。
報告しなかった88人は、名指しで尋ねられても見たとは答えず、何人かは映像をもう一度見るまで信じませんでした。
ただし視線は記録されておらず、ゴリラを直視したのに見えなかった、とまでは言えません。
人混みや診察室で同じ割合になるかどうかも、この実験では測られていません。
それでも、人混みで相手を見つけたあと、その手前にいた人までは思い出せないことがあります。
診察室で検査値の列を追うあいだ、隣の項目を後から思い出せないこともあります。
7人を一度に撮った映像で白シャツのパスを数えていた24人の前を、黒いゴリラは5秒間歩きました。
13人の報告には残りませんでした。
参考文献:
Simons DJ, Chabris CF. Gorillas in our midst: sustained inattentional blindness for dynamic events. Perception. 1999;28(9):1059-1074. doi:10.1068/p281059

参考動画:著者らによる「Selective Attention Test」
この動画は、本文の主実験で使われた5秒版ではなく、ゴリラが中央で胸を叩く9秒版です。原著では、白シャツのパスを数える新たな12人による追加条件として報告されています。また、この記事を読んだあとはゴリラを予期して見ることになるため、自分が気づいたかどうかを研究参加者の報告率と比べることはできません。
