雄のチンパンジーが、別の雄を後ろから抱きしめます。
そこへ3頭目、4頭目と一頭ずつ加わり、やがてできたのは抱擁の列です。
研究者たちは、この連なりを “reassurance train”――「安心の列車」と呼びました。
満員電車とは正反対です。
押し合って詰め込まれるのではなく、抱擁に一頭加わるたびに列が延びていきます。
研究チームは、この抱擁の列を着想の一つとして、食べ物をめぐる競争が始まる前にどれほど触れ合ったかと、食べ物が出たあとの観察時点で狭い場所に何度居合わせたかを比べました。
時間の境目は、ピーナツが届く前の5分間と、その後の2分間です。
2019年、この研究では、アフリカの2つの保護施設で、半野生状態のボノボ3群とチンパンジー2群が観察されました。
囲いの網へ竹の樋を振り寄せる「ピーナツ・スイング」という給餌実験です。
樋には1頭当たり12個のピーナツが入り、長さは約5頭につき1メートル。
限られた場所へピーナツが広がるため、皆で食べるには隣り合わなければなりません。
給餌前の5分間には、抱擁や毛づくろい、手を握る、体を寄せて座るといった幅広い接触行動について、誰と何回交わしたかを記録しました。
その回数を各個体が観察できた時間で割ったものが、1分当たりの接触率です。ピーナツが届くと、最初の2分間を15秒ごとに区切り、各個体が給餌区域から1メートル以内にいたかを最大8回確認しました。
食べた個数でも連続した滞在時間でもなく、その区域にいたと確認された回数を測ったのです。
5群116頭を対象に、研究者たちは45回の給餌を観察しました。
ボノボでは、ピーナツが届く前の接触率が高い個体ほど、その後の2分間、狭い給餌区域内でより多く確認されました。
性別や年齢、給餌実験の順番を統計上そろえても、この関係は残りました。
どの程度強い関係かという推定には幅がありましたが、接触した相手の数で比べても、結果は同じ方向でした。
3つのボノボ群とチンパンジー群C2では、接触率が高い個体ほど区域内で多く確認される方向でした。
ただし、4群のすべてで関係を明瞭に絞れたわけではありません。
もう一つのチンパンジー群C1だけは逆で、接触率が高いほど確認回数が少なくなりました。
C1とC2をまとめたチンパンジー全体では、接触率との関係はほぼ平らでした。
さらに接触した相手の数で見ると、ボノボとは反対に、チンパンジーでは相手が多いほど区域内の確認回数が少ない方向でした。
給餌前の接触と、その後に区域内で確認される頻度との関係は、5群に共通していません。
研究者は、競争前の接触が相手を安心させ、食物をめぐる緊張をやわらげる可能性を考えています。
しかし、この実験で数えたのは身体接触と給餌区域内で確認された回数で、安心感や信頼ではありません。
接触も実験的に増減させていません。
群をまたいで比較できる順位の指標も、二者の絆の強さも解析には入っておらず、給餌前にいた位置も中心解析では考慮されていません。
競争を予想した個体が先に接触した可能性もあり、接触がその後の同席を生んだとも、争いを防いだとも断定できません。
ピーナツが竹の樋へ落ちると、そこから狭い食卓が始まったように見えます。
けれど、この研究が見逃さなかったのは、その手前の5分間です。
食卓には、ピーナツより先に、誰かの体に触れる手がありました。
参考文献:
Grueter, C.C., Roncin, F., Nekaris, K.AI. et al. Heterospecific social behavior in primates: insights into the evolutionary roots of pet-keeping. Primates (2026). https://doi.org/10.1007/s10329-026-01281-0

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
