丸い石と背骨の穴 ― 一頭の魚竜に残った出来事の断片

丸い石と背骨の穴 ― 一頭の魚竜に残った出来事の断片

 

夏休みになると、各地で「恐竜展」が開かれます。

会場には恐竜だけでなく、同じ時代の海を泳いだ魚竜の化石が並ぶこともあります。

その骨格を見れば、海を泳いでいた姿や体の大きさを思い描けます。

見つかった地層から、いつごろ、どのような環境にいたのかも絞られます。

けれど、ある一頭の魚竜が何を口にしたのかなど、その個体に起きた具体的な出来事まで、骨から読み取るのは容易ではありません。

 

2026年、研究チームは、オーストラリア・クイーンズランド州の白亜紀前期の地層から見つかった魚竜の化石を詳しく調べました。

標本はプラティプテリギウス・アウストラリスとされる成熟個体で、推定全長は約6〜7メートルです。

頭から尾までの大まかな並びは残っていましたが、頸部は失われ、体幹の骨は10メートルを超える範囲に散らばっていました。

 

頭骨の約0.5メートル後方には、丸みを帯びた石の塊が4個ありました。

その1つを中性子で透視すると、魚の椎骨や肋骨、イカに近いベレムナイト、貝殻片に加え、翼竜のものとみられる骨片が2点入っていました。

主な骨片には、歯が収まっていた穴が並んでいました。

別の翼竜の下顎標本と3次元で重ねると、形がよく合う位置も見つかりました。

 

石の中に骨片があるだけでは、それが魚竜の胃に入っていたとは決められません。

塊の中の化石は海底の層に沿って寝ておらず、ばらばらの角度を向いていました。

研究者らは、魚竜の死後に移動した消化管の内容物が固まったと考える方が、翼竜の骨が偶然重なった、あるいは流れ込んだとする説明よりも、観察された状態によく合うと判断しました。

ただし、翼竜骨に明瞭な胃酸の痕はなく、見つかった骨片も2点だけです。

貝殻や砂礫は、消化管内容物を含む軟組織の塊が海底を動く間に混じった可能性もあります。

魚竜が翼竜、あるいはその一部を食べたという解釈は有力でも、確定ではありません。

 

丸い塊が消化管の内容物なら、翼竜の骨片は魚竜の口から体内へ入ったものです。

同じ魚竜の3個の背骨には、外から円錐状にえぐられた明瞭な穴が少なくとも5個ありました。

その1つは深さ26ミリメートルに達し、穴に沿って背骨が割れ、隣の肋骨が押し潰された部分もあります。

研究者らは、大型の海生爬虫類であるプリオサウルス類が魚竜の体を骨ごと噛んだ痕と解釈し、最有力候補にクロノサウルスを挙げました。

 

砕けた頭骨には咬み痕がなく、その破損は死骸が海底へ落ちた際に生じたと考えられています。

すべての破損を噛まれた痕とは見なせません。

また、プリオサウルス類が生きた魚竜を襲ったのか、死骸を食べたのかも判別できず、噛んだ動物をクロノサウルスと断定することもできません。

丸い塊と背骨の穴が、短い時間のうちに生じたという証拠もありません。

この1個体だけでは、翼竜が魚竜のふだんの餌だったのか、たまたま口にしたものだったのかも分かりません。

 

翼竜の骨片を含む丸い石と、プリオサウルス類の歯が穿ったとみられる背骨の穴を、ひと続きの場面にはできません。

そのあいだには、埋めてはいけない時間があります。

その空白を残したまま、一頭の魚竜に関わる二つの出来事の断片が、白亜紀の地層から現れました。

 

参考文献:

White MA, Bevitt JJ, Enchelmaier MJ, Petersen KW, Trusler PW. Beneath the waves: Extraordinary dietary insights from a dismembered ichthyosaur from the lower Cretaceous. Gondwana Res. Published online 2026. doi:10.1016/j.gr.2026.05.014

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。