風呂の排水口にたまった髪を、指でつまんで捨てます。
前より多い気がすると、年齢、体質、季節の変わり目と、原因はいくつも浮かびます。
けれど、量ばかり見ていると、もう一つの手がかりが抜けます。
増え始めたのは、いつだったのか。
糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体作動薬では、使用後の脱毛が市販後の副作用情報に集まっていました。
米国食品医薬品局(FDA)は2023年に安全上の検討対象とし、その後、多くの製品の添付文書へ脱毛を追記しました。
しかし、自発報告だけでは、報告されなかった人を含む分母も、別の薬を使った人との違いもわかりません。
ペンシルベニア大学の研究班は、2019年1月~2024年9月の電子カルテから、2型糖尿病があり、GLP-1受容体作動薬を新たに始めた成人を集めました。
比較したのは薬を使っていない人ではなく、同じ時期にSGLT-2阻害薬またはDPP-4阻害薬を始めた人です。
治療を必要とする人同士を比べ、もともとの病状や受診頻度の違いをできるだけ小さくしようとしたのです。
数えたのは診療で脱毛症と初めて記録された人で、受診しなかった軽い抜け毛は入りません。
年齢、体格、糖尿病の状態、合併症、腎機能、ほかの薬などを統計上そろえると、DPP-4阻害薬との比較では、脱毛症と記録された率は1,000人年あたり6.53件対3.89件でした。
1,000人を1年間追うのと同じ観察量に換算して、差は2.64件です。
追跡中に診断される速さは1.68倍で、推定の幅は1.28~2.20倍でした。
SGLT-2阻害薬との比較では6.91件対5.04件、差は1.87件で、相対値は1.37倍、幅は1.08~1.73倍でした。
相対値だけなら37~68%高くなりますが、絶対差は1,000人年あたり約2~3件です。
種類別にみると、両方の比較で一貫して高かったのは、休止期脱毛などを含む「その他の非瘢痕性脱毛症」でした。
円形脱毛症では、差の方向を絞れませんでした。
研究班はさらに、薬とは関係しないはずの30の診断を同じ方法で比べ、そこに現れた差を解析上のずれの目安にしました。
そのずれで推定を校正すると、DPP-4阻害薬との比較は1.54倍、1.11~2.14倍と高い方向に残りましたが、SGLT-2阻害薬との比較は1.25倍、0.99~1.58倍となり、どちらが高いかを絞り切れなくなりました。
この校正でも、電子カルテに記録されない違いをすべて取り除けるわけではありません。
各群で脱毛症の診断が記録された日を並べると、薬を始めたあとの最初の1年に集まり、12カ月の少し前に山がありました。
ただし、これは髪が抜け始めた日ではなく、診療記録に診断が付いた日です。
最初の1年が薬による脱毛の危険期間だと確定したわけではありません。
研究者は、急な減量や食事量の低下が毛の生え替わりを乱した可能性も挙げています。
ただし、開始後の体重や栄養状態を追っておらず、薬の直接作用とは分けられません。
処方記録は実際の使用を保証せず、薬が脱毛の原因とも言えません。
対象も米国の一つの医療網に通う2型糖尿病の成人です。
透析中の人は除かれ、糖尿病のない人や日本で暮らす人に同じ数字が当てはまるかもわかりません。
排水口の髪は、量だけでは原因を語りません。
それでも、薬を始めた日と診療記録に脱毛が現れた日を同じカレンダーに置けば、少なくとも「いつから」を比べられます。
この研究が数えたのは、髪そのものではなく、その二つの日付の間でした。
参考文献:
Tang H, Zhang B, Lu Y, et al. Risk of hair loss associated with glucagon-like peptide-1 receptor agonists in adults with type 2 diabetes: target trial emulation. BMJ. 2026;394:e100077. Published 2026 Jul 22. doi:10.1136/bmj-2026-100077

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
