インフルエンザの予防接種は午前中に受けたほうがいい、という話をどこかで聞いたことがあります。
それを信じて、午前の接種にこだわる人もいます。
実際、朝に接種した人のほうが抗体の反応が大きかった例も報告されてきました。
ただ、そこで測られていたのは抗体の値で、その後に医療機関でインフルエンザと診断されたかどうかではありません。
体内時計がワクチン接種後の免疫反応に関わるのではないかとは、以前から考えられてきました。
ワクチンの種類を無作為に割り付けた試験のデータを、接種時刻で後から分けた解析でも、早い時間帯のほうが呼吸器疾患による入院が少ない可能性が報告されています。
ただし、抗体を調べた研究は人数が限られ、入院の結果も、接種時刻そのものを無作為に割り付けて比べたものではありません。
医療機関での診断を大規模に調べた証拠は、まだありませんでした。
2026年7月に発表された研究は、300を超える医療組織が匿名化した電子カルテを共有する仕組みを使って、そこを調べました。
対象は、2023年からの3シーズンに午前7時から午後5時の間に接種を受けた18歳以上の成人です。
朝に打つ人と午後に打つ人では、もともとインフルエンザと診断されやすい条件が違うかもしれません。
そこで研究者は、人と人を比べるのをやめました。
2シーズン以上接種した人について、同じ人が別のシーズンには異なる時刻に接種した記録を使い、その人自身の中で比べたのです。
性別や持病など、期間中に変わらない個人の特徴は、比較の両側に同じように入ります。
比べたのは接種者どうしであり、ワクチン自体の有効率を調べたものではありません。
数えたのは接種から2週間以降に医療機関で記録された診断で、受診しなかった感染は含まれません。
抗体も測っていません。
全体では約1,590万人、延べ約2,306万回分の接種記録が集まりました。
中心の比較に使われたのは、2シーズン以上接種した約546万人、延べ約1,262万回分です。
この集団では年齢の中央値が63歳でした。
午前7時から午後5時までの11時刻をまとめて比べると、接種時刻と診断率のあいだには統計上の関連が検出されました。
しかし、図から読み取れる時刻ごとの調整後の診断率は、およそ1.2~1.3%の狭い範囲に収まっています。
午前から午後へ向かって一方向に増える並びではなく、著者も臨床的に意味のある大きさではないと判断しています。
入院については、接種時刻との関係を統計上確かめられませんでした。
何時に打ってもまったく同じと証明したわけではありませんが、午前が有利だと読める結果でもありませんでした。
これまで朝がよいかもしれないと考える材料になっていたのは、主に抗体の反応や、接種時刻を無作為に決めていない人どうしの比較でした。
今回、同じ人の記録を比べても、医療機関での診断は午前ほど少ないという並びにはなりませんでした。
抗体が大きく増えることと、その後の診断や入院が減ることは同じではありません。
ただし、この研究は抗体を測っていないため、免疫反応に時刻の差があることまで否定したわけでもありません。
もっとも、11時刻全体で検出された関連が、接種時刻そのものによるのか、シーズンごとに変わる別の条件によるのかは、この設計では分かりません。
同じ人を比べても、年をまたいで変わらない特徴はそろえられますが、年ごとに変わる条件までは消せないからです。
著者も、こうした別の条件の影響が残る可能性を研究の限界に挙げています。
予約の時刻が、接種を受けるかどうかに影響するかは今後の課題です。
午前中がいいという話は、これからも耳に入ってくるでしょう。
それでも次に接種の時刻を決めるとき、私が気にするのは午前か午後かではなく、その時間なら確かに腕を出しに行けるかどうかです。
参考文献:
Wong KK, Jena AB. Time of Day of Influenza Vaccination and Subsequent Influenza Risk. JAMA Netw Open. 2026;9(7):e2625267. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.25267

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
