朝、出勤前にコンビニでコーヒーを買うのが日課です。
店によって、ボタンを押すのは客だったり店員だったりします。
けれど、誰が押しても、私たちに見えるのは始まりと終わりだけです。
豆を挽く音がして、しばらくすると湯気の立つ一杯が注がれます。
その間、豆とカップのあいだで何が湯へ移り、何が途中に残ったのかは見えません。
紙フィルターを使っているのかどうかさえ、機械の外からはわかりません。
健康の話になると、その一杯はしばしばカフェインの別名のように扱われます。
眠気を払い、脈や血圧にも影響するため、コーヒーの作用までカフェインで説明されがちです。
2026年、AHA(米国心臓協会)が多数の研究を整理した科学声明は、コーヒーとカフェインを分けて考える必要を示しました。
声明そのものが新たな実験を行ったのではなく、これまでの臨床試験や観察研究を検討した文書です。
声明が取り上げた研究では、カフェインとは別の成分と、いれ方の違いが血液中のコレステロールにどう関わるかが調べられていました。
コーヒーには、カフェストールという成分も含まれています。
ジテルペンの一種で、脂質との関係が調べられてきました。
カフェストールのカプセルを用いた無作為化試験では、LDLコレステロールが上昇しました。
別に行われたカフェインのカプセル試験では、LDLの上昇は確認されませんでした。
ただし、両者を同じ試験内で直接比べた結果ではなく、カフェインに作用がまったくないと証明したわけでもありません。
カップに含まれるカフェストールの量は、いれ方によって変わります。
フレンチプレス、ギリシャ/トルコ式、北欧の煮出し式など、紙で濾さないコーヒーにはカフェストールが含まれます。
エスプレッソやモカポット式にも含まれますが、その量はフレンチプレスなどより少なく、紙フィルターで濾したコーヒーやインスタントには、多くは含まれません。
声明によれば、無濾過コーヒーを多く飲む条件を扱った複数の無作為化試験では、血清コレステロールの上昇が一貫して見られました。
一方、紙で濾したコーヒーを扱った試験では、血清コレステロールの上昇は確認されませんでした。
これらが、同じ試験内で無濾過と紙濾過を直接比べた結果だとは、声明の記述だけからは断定できません。
ただ、カフェストールの摂取ではLDLコレステロールが上がり、無濾過コーヒーの摂取では血清コレステロールが上がっています。
コーヒーが脂質へ及ぼす作用を、カフェインだけで説明することはできません。
声明には、LDLがどれほど上がったのか、どの量をどれだけの期間とったのかという詳しい数字が示されていません。
「上昇が確認されなかった」という結果も、わずかな差まで存在しないと保証するものではありません。
さらに、測られたのは血液中のコレステロールです。
紙フィルターが心筋梗塞や死亡を減らすと確かめた試験ではありません。
「無濾過は危険」「紙濾過なら心臓を守れる」とまでは言えません。
コンビニの機械から出てきた一杯を見ても、その途中はやはり見えません。
豆とカップのあいだで何を通し、何を残したかによって、カップへ入るカフェストールの量は変わります。
参考文献:
Marcus GM, Hu FB, van Dam RM, et al. Caffeine and Cardiovascular Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. Published online July 20, 2026. doi:10.1161/CIR.0000000000001454

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
