太陽は地球を飲み込むのか ― 鍵を握るのは軌道の移動

太陽は地球を飲み込むのか ― 鍵を握るのは軌道の移動

 

紙に太陽と地球を描くなら、中央に太陽を置き、その周りに地球の軌道を円で描きます。

太陽が年老いて膨らむ未来を考えるときも、つい地球をその円の上に置いたまま、太陽だけを大きくしたくなります。

膨らんだ太陽の縁が地球まで届けば飲み込まれ、届かなければ残る―

一見すると結末はそれだけで決まりそうです。

けれど、太陽が膨らむその間に、地球の軌道そのものも動いています。

 

その動きを追ったのが、2026年に発表された研究です。

太陽の進化モデルと水星から火星までの軌道計算を組み合わせ、太陽が赤色巨星分枝(RGB)と漸近巨星分枝(AGB)という2つの巨星期を通る間に、惑星の軌道がどう変わるかを調べました。

太陽は膨らむ一方で、恒星風として物質を失います。

質量が減れば重力が弱まり、惑星の軌道は外へ広がります。

しかし、膨らんだ太陽との潮汐作用はその拡大に逆らい、惑星を内側へ引き戻します。

地球の行方は、質量放出で軌道が外へ広がる動きと、潮汐によって軌道が内側へ縮む動きとの釣り合いに左右されます。

この計算は各惑星を個別に追ったもので、惑星同士の重力や、太陽の半径が飲み込み判定の境界を越えた後の物質移動、密度変動による確率的な離心率の変化は含めていません。

 

基準となる計算では、RGB期の質量放出係数を観測に基づく0.477、AGB期の係数を0.05としました。

更新された潮汐モデルを用いると、水星と金星はRGB期に飲み込まれましたが、地球と火星は2つの巨星期を生き残りました。

ところが、同じ条件で従来の潮汐モデルを使うと、地球はRGB期の後も十分遠くへ移動できず、AGB期に飲み込まれました。

条件は同じでも、潮汐の扱い方だけで判定は反転しました。

ただし0.477には観測上の幅があり、この基準計算だけで飲み込みを完全に否定はできません。

 

AGB期の質量放出の強さを変えると、結末はさらに分かれました。

係数を0.01から0.5まで動かしたところ、0.01では地球の飲み込みが有力でした。

0.02~0.03では、熱パルスと呼ばれる数百年ほどの膨張時にだけ、太陽が判定の境界をわずかに越えました。

しかし、その後の相互作用までは計算していないため、生存とも飲み込みとも決められません。

0.04以上では境界を越えず、地球は残りました。

ここに現れた違いは生存確率ではなく、質量放出についてどの条件を置くかによる違いです。

 

L2 Pupは初期質量が太陽に近く、AGB期の質量放出率を実際の観測から見積もれる星です。

ところが、この星では塵による推定と一酸化炭素による推定が約80倍も違い、係数に直すとそれぞれ2.5と0.03になりました。

2.5はこの研究で調べた範囲外であり、0.03は結末を決められない範囲に入ります。

基準値の0.05は、観測値でも両推定の中間でもなく、この不確かさを踏まえた計算上の値です。

研究者はL2 Pupの観測から、地球がAGB期を生き残る可能性が高いとみましたが、生存確率を算出したわけではありません。

 

巨星を含む連星の観測からは、潮汐が現行モデルの予測より強く、地球を飲み込み側へ傾ける可能性が読み取れます。

ただし、連星の潮汐は地球―太陽系より高周波で、結果をそのまま当てはめることはできません。

更新モデルも、限られた対流の数値計算を実際の恒星へ外挿したものです。

「新しいモデルだから地球は助かる」とまでは言えません。

ここでの「生き残る」は太陽に飲み込まれないという意味であり、生命や海、大気が残るかどうかは対象外です。

 

未来の太陽系を描くなら、太陽の輪郭だけでなく、地球の軌道も書き換えることになります。

膨らむ太陽の縁と、質量を失う太陽から遠ざかる地球の円。

その2本を紙の上に引いてみると、触れ合うのか、わずかな隙間を残すのか、決めきれないまま並びます。

 

参考文献:

Esseldeurs M, Mathis S, Decin L. The fate of Earth during the Sun’s giant phases: new constraints from ab initio tidal modelling and AGB mass loss. Astron Astrophys. 2026;710:L26. doi:10.1051/0004-6361/202660576

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。