初期宇宙の絵は、何度でも描き直せる

初期宇宙の絵は、何度でも描き直せる

 

コペンハーゲンの研究所にいる天文学者は、考えがまとまらないと紙に絵を描くそうです。

小さな丸を塗ってブラックホールにし、中心を横切る線で円盤を、その外側の大きな丸でガス雲を表します。

観測と合わない部分があれば、また描き直します。

分からないから紙が白いのではありません。

むしろ、そこには何通りもの絵が重なっていきます。

 

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2022年に本格観測を始めてから、その空白の中身は急に混み合ってきました。

以前は見えなかった「小さな赤い点」が数百個見つかり、ビッグバンから約6億5000万年後には相当数があったと報告されています。

同じ初期宇宙からは、従来のモデルで説明しにくいほど大きなブラックホールや、予想以上に明るい銀河も見つかりました。

研究者が引っかかったのは、見えないことではなく、見えたものが手持ちの理屈に収まらないことでした。

 

天文学者のもとへ届くのは、はるかな宇宙を旅してきた光だけです。

その光がどれだけ引き伸ばされたかから時期を推定し、成分に分けてブラックホールの質量や周囲のガスの性質を見積もります。

誕生時の種の重さや、その後の育ち方を直接測ることはできません。

いま届いている光の波長と強さから、見えない過去をたどります。

 

第一世代の星が燃え尽きて残す種は、重くても約100太陽質量と見積もられています。

落ちこむ物質が放つ光が次の物質を押し返すため、取りこむ速さには上限があると考えられてきました。

ところが2024年、ビッグバンから約15億年後の1個のブラックホールが、その時点で上限の約40倍に相当する勢いで物質を取りこんでいたと報告されました。

巨大なガス雲が星へ分かれる前にそのまま潰れるモデルなら、種は初めから約1万太陽質量です。

約7億5000万年後の赤い点の1つでは、周囲に識別できる恒星が見つからず、ブラックホールは約5000万太陽質量と推定されました。

 

光から推定できるのは、現在の質量や、その時点で物質を取りこむ速さです。

そこへ至るまでに速さがどう変わり、何度合体し、どれほどの重さで生まれたかは直接測れません。

小さな種が急いで育った場合も、重い種から始まった場合も、現在の重さは同じになり得ます。

同じ光に合う絵は、1枚とは限りません。

その天文学者が最初に描いたのは、ブラックホールを一様に厚いガスが包む姿でした。

そこを通り抜けた光なら、成分にガスの影響が残るはずです。

実際に届いた光には、予想された変化が見られませんでした。

紙の上の雲には、光が抜ける穴が加わりました。

穴のあいた雲も、まだ観測で確かめる途中の仮説です。

 

中間赤外線で調べた初期の銀河も、同じ顔をしていませんでした。

ガスも塵も吹き払われたように星だけが見えるものも、ガスを抱えたように見えるものもありました。

作られ方が別々とは限らず、同じ周期的な星形成の異なる段階かもしれません。

約40倍と約5000万太陽質量は個別天体の光から得た推定値ですが、約1万太陽質量は直接崩壊モデルが想定する種の規模です。

大きな数字が3つ並んでも、証拠の種類は揃いません。

 

天文学者は次の紙に、穴のあいたガス雲を描きました。

その絵も、正解と決まったわけではありません。

手はまだ動いています。

 

参考文献:

Bennett J. Astrophysicists puzzle over Webb’s new universe. Quanta Magazine. Published July 2, 2026. Accessed July 21, 2026. https://www.quantamagazine.org/astrophysicists-puzzle-over-webbs-new-universe-20260702/

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。