南の海底のミステリーサークル ― その発見から解明への道のり

南の海底のミステリーサークル ― その発見から解明への道のり

 

奄美大島南部の砂に覆われた海底に、直径約2 mの円形模様があります。

中心から放射状に峰と溝が並び、峰には貝殻やサンゴ片まで置かれています。

上から見れば、作り手は完成した円を思い描き、設計図に沿って砂を刻んだように見えます。

 

円形構造は1995年、地元のダイバーに見つかり、「ミステリーサークル」と呼ばれました。

作り手が分かったのは2011年です。

全長10 cm余りの雄のフグでした。

その後、研究者は雄と雌を1匹ずつ採集し、ひれを支える条と椎骨の数、CTで見た頭骨と小さな棘、体の白い斑点を調べました。

2014年、この魚は新種アマミホシゾラフグとして記載されました。

魚より先に、その魚が残した形のほうが知られていたのです。

 

2016年、研究チームは1匹の雄が1つの巣を作る過程を、9日間にわたって潜水観察しました。

1日目にあったのは円ではなく、約65×50 cmの範囲に散らばる数十個の不規則なくぼみでした。

その日の午後には約85×75 cmまで広がりましたが、まだ放射状の溝はありません。

2日目に溝が24本現れ、6日目には半径831 mmまで広がりました。

9日目、半径918 mm、29本の溝をもつ円になり、中央の細かな模様と貝殻やサンゴ片の飾りが仕上げられました。

 

その同じ巣を解析した別の研究では、造巣初期と中期に撮影した数百回の掘削を0.5秒ごとに追いました。

雄は短い直線に沿って砂を掘り、調べた20本の軌跡では、直線性指数の平均が1に近い0.97でした。

外周ではつねに中心へ進み、溝がはっきりした中期には、すでに低い谷から掘り始めていました。

研究チームは、中心から掘り始める地点までの距離、掘る方向と長さを映像から求め、モデルに低い場所を選びやすい条件を加えました。

この条件を入れない計算では明瞭な放射模様はできず、条件を加えると、反復につれて放射状の溝に似た形が現れました。

 

雄が繰り返し掘ってできた溝には、細かい砂粒を中央へ運ぶ働きもありました。

雄がひれで砂を巻き上げて溝を泳ぐと、細砂が中央に集まります。

半分の大きさの模型に水を流した実験では、上流側の溝で水が中心へ向かい、中央の流速は外側より24.2%低くなりました。

雌が訪れたのは仕上げ段階だけで、雌が近づくと雄は中央の細砂を巻き上げて求愛しました。

雌雄はその砂床で体を震わせ、研究者はそこで配偶子が放出されたと判断しています。

2012年6月29日の別の観察では、1匹の雌が38分間に巣を33回出入りし、産卵動作を43回繰り返すうちに、中央の模様は崩れていきました。

 

ただし、「雄は完成図を持たない」とまでは言えません。

詳しい行動解析は同じ1匹、1つの巣を2日分撮影した記録に基づき、モデルで扱ったのも外側の放射状の溝だけです。

また、雌が円の大きさや対称性、砂の粒、貝殻の飾りのどれを基準に雄を選ぶのかも、まだ特定されていません。

少なくとも計算上、掘るたびに完成図と照らし合わせなくても、外周の放射状の溝に似た形が現れました。

 

産卵後、雄は外周の峰や溝を修理せず、円は水流に削られてほぼ平らに戻ります。

その間も雄は残り、砂に付着した卵をひれでかき混ぜ、ゴミを除き、近づく魚を追い払います。

2012年7月の観察では、約5日後の日没ごろ、雄がひれを動かすのと同時に仔魚が孵化しました。

孵化後、雄はそこを離れました。

観察された雄たちは古い円を再利用せず、別の砂地に次の巣を作りました。

2016年に最初期から追えた1つの巣も、円ではない数十個のくぼみから始まっていました。

 

参考文献:

·  Matsuura K. A new pufferfish of the genus Torquigener that builds “mystery circles” on sandy bottoms in the Ryukyu Islands, Japan (Actinopterygii: Tetraodontiformes: Tetraodontidae). Ichthyol Res. 2015;62:207-212. doi:10.1007/s10228-014-0428-5

·  Kawase H, Mizuuchi R, Shin H, Kitajima Y, Hosoda K, Shimizu M, et al. Discovery of an earliest-stage “mystery circle” and development of the structure constructed by pufferfish, Torquigener albomaculosus (Pisces: Tetraodontidae). Fishes. 2017;2(3):14. doi:10.3390/fishes2030014

·  Kawase H, Okata Y, Ito K, Ida A. Spawning behavior and paternal egg care in a circular structure constructed by pufferfish, Torquigener albomaculosus (Pisces: Tetraodontidae). Bull Mar Sci. 2015;91(1):33-43. doi:10.5343/bms.2014.1055

·  Kawase H, Okata Y, Ito K. Role of huge geometric circular structures in the reproduction of a marine pufferfish. Sci Rep. 2013;3:2106. doi:10.1038/srep02106

·  Mizuuchi R, Kawase H, Shin H, Iwai D, Kondo S. Simple rules for construction of a geometric nest structure by pufferfish. Sci Rep. 2018;8(1):12366. doi:10.1038/s41598-018-30857-0

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。