若いカモメの羽は、まだらの茶色をしています。
白と灰色でくっきり整った大人の隣に立つと、その茶色はいかにも仕上がりきっていない、途中の色に見えます。
私たちはつい、この茶色を、早く抜け出すべき中途半端な時期のしるしとして眺めます。
ところがアメリカセグロカモメは、この茶色を何年も持ち越します。
大人の羽になるまでに数年かかる、妙に長い足踏みです。
けれど、その茶色い足踏みには、若い鳥にとっての使いみちがあるのかもしれません。
カナダのケント島に、最大で6,000羽が集まる繁殖地があります。
卵を抱えた大人たちは気が立っていて、縄張りに近づく者に容赦がありません。
餌を探して群れを横切る若い鳥は、そのたびに攻撃の的になりかねない立場です。
こうした大人たちは、まだらの茶色い若鳥を、どう扱うのでしょう。
カモメに、なぜ攻撃が弱まるのかをたずねることはできません。
若い鳥が見逃されるのは、遠慮がちに振る舞うからだ、とも考えられます。
そこで研究者は、見た目以外をすべて取り除きました。
使ったのはプラスチックの模型で、種類は4つ。
1年目のまだらな茶色、3年目のほとんど大人だが茶色い斑が残る羽、白と灰色の成鳥、そして競争相手にならない対照のカナダガンです。
模型は動きも逃げもしませんから、大人の扱いに差が出れば、それは振る舞いではなく見た目から来ることになります。
120の巣で試したところ、大人は、茶色い1年目の模型を、成鳥の模型よりも48%攻撃しにくくなりました。
しかも、いざ向かっていくときも立ち上がりが遅く、攻撃性が最も高くなるまで約44秒かかりました。
成鳥型では37秒です。
全体の激しさも低いままでした。
攻撃の頻度、立ち上がりの速さ、激しさ。
別々に測った3つの結果は、同じ向きにそろっています。
不利に見えたその地味さをまとう相手ほど、大人は手を出しかねていたのです。
ところが、3年目の――ほとんど大人で、茶色い斑だけが残る――模型は、成鳥の模型と扱いが変わりませんでした。
両者のあいだに差は確かめられなかったのです。
茶色による見逃しは、斑がわずかに残る程度では起きません。
ひと目で1年目と読める茶色でいるあいだだけ、それは続きます。
3年ほど経つと、同じ茶色でも、その札としては読まれにくくなります。
同じかたちは、カモメの外にも見つかります。
若いオスのオランウータンが顔の張り出しの成長を遅らせること、一部の魚や小鳥が体の育ちよりも長く大人になりきらずにいること。
別々の系統で、大人になりきらない見た目のまま年長者のあいだを動くことが、競争相手と読まれずに済む道になっています。
いちばん若いカモメにとって、茶色い羽は、大人が読む初心者マークのようなものです。
まだ敵ではない、だから手を出すまでもない。
地味な茶色が低い地位のしるしであり、そのぶん安全でもある、という見方と、この結果はよく合います。
ただし、この研究で見たのは、繁殖期の巣の近くで、模型に対する成鳥の反応です。
生きた若鳥の動きや鳴き声まで含めた関係を、そのまま写したものではありません。
それでも、白と灰色の整った大人たちのあいだに、まだらの茶色い若鳥が立っているのを次に見かけたら、その地味さは、取り替えを待つ未完成の羽であるだけではありません。
そこに立っていられるための札でもあります。
数年のあいだ消えずに残る、海辺の小さな初心者マークです。
参考文献:
Hill MM, Dobney SL, Fanburg LK, Mennill DJ, Taylor LU. Experimental study of social signalling through delayed plumage maturation in a colony-nesting seabird. Anim Behav. 2026;237:123616. doi:10.1016/j.anbehav.2026.123616

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
