オオメジロザメは、危険なサメとして名前が挙がることの多い魚です。
鋭い歯を持つ大型の捕食者で、海だけでなく汽水や淡水にも入り、ときに人との事故も起こします。
群れで身を寄せ合う魚というより、単独で獲物を追う魚。
私たちが「サメ」と聞いて身構える、あのパニック映画めいた姿に近い存在です。
だから、何十匹ものオオメジロザメが同じ場所に集まっていても、まず思い浮かぶ理由は単純です。
そこに餌があるから集まった。
たまたま同じ時間に、同じ餌場に来ただけ。
けれども、研究者たちが見ようとしたのは、その先でした。
集まったサメたちは、どの個体のそばにいたのか。
どの相手と並び、どの相手について泳ぎ、どの相手とは関わらなかったのか。
舞台はフィジーのサメ保護区です。
ここでは長年、観光ダイビングの場でオオメジロザメに餌が与えられてきました。
研究チームは6年にわたり、473回の潜水、8192分の観察を重ねました。
傷、ひれの欠け、タグを手がかりに個体を見分け、184個体を記録しました。
体1つ分以内に近づく相手を確認し、並んで泳ぐ、先を泳ぐ、ついていく、途中で戻るといった動きも調べました。
餌場に来ただけなら、組み合わせを入れ替えても、近づき方はあまり変わらないはずです。
研究者たちは、現実の組み合わせを、偶然に並べ替えた組み合わせと比べました。
すると、現実には偏りがありました。
よく近づく相手がいる一方で、同じ場にいてもほとんど関わらない相手もいました。
同じ時間、同じ場所、同じ餌。それだけでは片づけにくい差でした。
性別で見ても、年齢で見ても、体の大きさで見ても、完全に同じではありませんでした。
メスはメス同士で近づきやすく、オスは平均して多くの相手とつながっていました。
成体は関係の中心にあり、若い個体と高齢の個体は周辺に寄りやすい傾向がありました。
体の大きさは、同じ場所にいる関係では強く表れませんでしたが、直接のやり取りでは近い大きさ同士が増えていました。
差の出方はそれぞれ違います。
それでも、どの入口から見ても残るのは、相手によって距離と関わり方が変わるという一点です。
もちろん、これをすぐ友情と呼ぶのは早いです。
サメに名刺交換を求めるのは、こちらの都合が強すぎます。
しかも、この場所は25年ほど餌付けが続いた特別な海域です。
外洋を泳ぐすべてのオオメジロザメを、そのまま表しているわけではありません。
ただ、特別な場所だからこそ、何度も顔を合わせる条件が生まれました。
人工的な場であることは限界であり、同時に、関係の濃淡を観察する窓でもありました。
海で大きなサメたちが集まっているとき、私たちはそれを「群れ」と呼んで通り過ぎます。
けれど、その内側には、近づく、離れる、並ぶ、譲るという細かな間合いがあるのかもしれません。
次にサメの映像を見るとき、青い奥行きの中に、ただの集合ではない距離の濃淡を探してしまうかもしれません。
参考文献:
Marosi ND, Ellis S, Jacoby DMP, Brunnschweiler JM, Croft DP. Rolling in the deep: drivers of social preferences and social interactions within a bull shark aggregation in Fiji. Animal Behaviour. 2026;234:123511. doi:10.1016/j.anbehav.2026.123511

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
