笑いは人間だけのものではなかった ― 類人猿の「ハハハ」に残る古い拍子

笑いは人間だけのものではなかった ― 類人猿の「ハハハ」に残る古い拍子

 

人間は「笑う動物」だと言われます。

でも、どうやら独占契約ではなかったようです。

動物園やテレビで、チンパンジーが口を開けて息をはずませている姿を見ると、私たちはつい「笑っている」と言いたくなります。

ある世代なら、マイケル・ジャクソンのそばにいたバブルス君の顔を思い出すかもしれません。

あの声は、人間の笑いと同じ仲間なのでしょうか。

 

顔つきや気分から考えると、境目はすぐにあいまいになります。

楽しそうに見える。遊んでいるように見える。

相手と通じ合っているように見える。

けれど、見た目だけで判断すると、こちらの思い込みも混ざります。

研究者たちは、笑いがどれほど楽しそうかではなく、「ハ」と「ハ」のあいだに耳を寄せました。

 

調べたのは、オランウータン、ゴリラ、ボノボ、チンパンジー、そして人間の子どもの笑いです。

人間の子どもは母親との家庭の遊びの中で、類人猿はいくつもの動物施設で、遊んでいるときの笑いと、くすぐられたときの笑いを分けて録音しました。

最初の声から次の声までの間隔を測り、その続き方を比べます。

笑いを気持ちの表れとしてだけでなく、呼吸と声がつくる小さな拍子として見るのです。

 

測ってみると、笑いには等時性という特徴がありました。

難しく聞こえますが、声が同じくらいの間隔でくり返されることです。

「ハ、ハ、ハ」と続くとき、そのあいだがどれくらいそろっているかを見る。

人間だけでなく、人間以外の大型類人猿の笑いにも、この規則性がありました。

140の笑いのまとまりをたどると、この拍子は、ヒトの系統が他の大型類人猿と分かれる前までさかのぼる可能性が見えてきます。

 

同じ拍子があるからといって、笑い方まで同じとは限りません。

人間に近い種ほど、笑いのテンポは速くなり、間隔のばらつきも大きくなっていました。

チンパンジーやボノボにも拍子はあります。

けれど、遊びの笑いと、くすぐられた笑いとで、その場に合わせてテンポを変えられたのは、人間の子どもだけでした。

人間の笑いは、同じ拍子を借りながら、その拍子から離れる幅のほうを広げてきたようです。

 

この録音から言えることには、まだ限りがあります。

調べた個体数は多くありません。

動物たちの声も、多くは飼育下で録られたものです。

「笑いが言葉を生んだ」と言い切るには、まだ飛躍があります。

それでも、この研究の面白さは、言葉そのものではなく、声の速さや間隔を調整する体のしくみに目を向けたところにあります。

 

次に誰かの笑い声を聞いたとき、私たちはその人の気分だけを聞いているわけではないのかもしれません。

「ハ」と「ハ」の短いすきまには、呼吸と声が折り合いをつける時間があります。

そこには、森で遊んでいた遠い親戚たちの拍子と、今ここで少し速くも遅くもできる私たちの声が、かすかにつながって見えてきます。

同じ拍子の上に立ちながら、少しだけ間を外せる。

その小さな幅の中に、私たちの声があります。

 

参考文献:

De Gregorio C, Davila-Ross M, Lameira AR. Rhythm and timing in laughter reveal that human vocal plasticity falls on a hominid continuum. Commun Biol. 2026;9:824. doi:10.1038/s42003-026-10499-z

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。