2頭のシャチが、1本の海藻を体のあいだにはさんでいました。
流れてきた海藻が、たまたままとわりついたのではありません。
片方のシャチが用意した短い海藻を、仲間の脇腹に押し当てています。
2頭は体を寄せたまま、その海藻を落とさないように転がしていきます。
シャチやイルカが海藻を体にまとわせる行動は、以前から知られていました。
背びれに長い海藻を垂らし、体にまとうようにして引きずって進む。
専門家は、こうした行動をケルピングと呼んできました。
海面から見れば、遊んでいるようにも見えます。
私たちも最初は、「海藻で遊んでいるのだろう」と片づけたくなります。
今回、研究チームが目を向けたのは、その見慣れた光景の中にあった、少し違う動きでした。
研究チームは2024年4月10日から7月27日まで、サリッシュ海に暮らす南部定住型シャチをドローンで観察しました。
上から見ると、水面下の体の向きや、相手との距離がよくわかります。
シャチはブルケルプという大型の海藻を歯でくわえ、水の抵抗と体の動きを利用して、茎のような部分を短く切り出していました。
そして、それを仲間との体のあいだにはさんでいたのです。
研究チームは、この新しいしぐさをアロケルピングと呼びました。
このしぐさは、12日の観察のうち8日で、30回確認されました。
J、K、Lという3つの群れで見られ、Jポッドでは6つの母系すべて、25頭中19頭で確認されています。
子どもだけの遊びではなさそうです。
特定の組み合わせで一瞬だけ起きたことでもありません。
2頭が触れ合っていた時間は中央値で32秒、長い例では186秒でした。
離れたあとに海藻を拾い直して、もう一度始めることもありました。
では、これは何をしているのでしょう。
研究チームは、皮膚の手入れではないかと考えました。
シャチは体をS字に曲げ、こすりたい面を作るような姿勢をとっていました。
古い皮膚がはがれかけている個体ほど、このしぐさが多い可能性もありました。
血縁が近い相手、年齢が近い相手とのあいだで起こりやすい傾向もありました。
切り出された短い海藻、2頭で保たれる距離、続く接触、拾い直して再開する動き。
遊びだけでは、説明しきれなくなってきます。
もちろん、まだ決めつける段階ではありません。
観察数は限られています。
海藻でこすったあとに皮膚がどう変わるのか、ほかのシャチの集団にも同じしぐさがあるのか、これから確かめる必要があります。
ただ、本当に皮膚の手入れに役立つなら、海の哺乳類が道具を作って使っていることになります。
しかも、その1本を2頭で一緒に使っていることになります。
浜辺に打ち上げられた海藻を見ると、以前ならただの漂流物でした。
見方を少し変えると、それは海の中で、誰かの体に触れていた1本かもしれません。
背びれから長く垂れ、遊びに見えた海藻とは別に、短く切り出され、片方の体ともう片方の体のあいだで転がされる細い線。
次に海辺で海藻を見かけたとき、シャチの黒い背中を思い浮かべずにはいられません。
参考文献:
Weiss MN, John RE, Caro-Ruiz AM, et al. Manufacture and use of allogrooming tools by wild killer whales. Curr Biol. 2025;35:R587-R600. doi:10.1016/j.cub.2025.04.021

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
