海はずっとそこにあります。
足元に大地があるように、海もまた、地球ができたときからそこにあるものだと、私たちは感じています。
ところが科学者たちは長いあいだ、この海の水は、最初から地球の表面にあったのではないと考えてきました。
水は宇宙のどこか外側から運ばれてきた、というのです。
地球は46億年ほど前、溶けた岩の球体として生まれました。
生まれたての地球に、今のような青い海はありません。
その熱い岩の球が、やがて青い惑星になります。
広く信じられていたのは、彗星が水を運んだという説でした。
彗星は氷の多い天体で、太陽に近づくと長い尾を引きます。
そうした天体が初期の地球に降りそそぎ、海のもとになる水を運んだ。
筋の通る話に思えました。
ところが探査機が彗星に追いついて水を調べると、水を作っている水素の種類が、地球の海とは少し違っていました。
水素には、ふつうのものより少し重い種類があります。
その割合が、ハレー彗星では地球の海の約2倍もありました。
彗星が合わないなら、小惑星はどうでしょう。
日本の探査機が訪ねた小惑星リュウグウの試料は、水が地球の海とよく似ていました。
けれど希ガスなど別の成分ではずれがあり、そもそも外来説には共通の弱点がありました。
海を満たすほどの氷や岩の塊が地球に降ってきた、という偶然に頼っているのです。
その偶然をあてにしないなら、水の出どころは地球の外だけとは限りません。
水はよそから届いただけではなく、この惑星の大気と岩石のあいだで生まれたのかもしれません。
とはいえ水素と酸素は、進んで結びつくものではありません。
地球の側に水を生む条件があったとすれば、よほど高い圧力と熱が要ったはずです。
遠くの恒星をめぐる惑星を望遠鏡でながめると、水に富む大気をもつものが見つかります。
その多くは、生まれたころ水素をたっぷり抱えていたらしいのです。
同じ水素は、地球ができた材料に近いとされる隕石にも隠れていました。
調べ直すと、ないと思われていた水素が、有機物やガラスのなかに見つかったのです。
初期の地球にも、水素はあったのかもしれません。
実験室では、ダイヤモンドで強く圧した水素と、レーザーで溶かした岩とを反応させました。
この再現にこぎつけるまで5年かかり、ダイヤモンドも何枚も割れたそうです。
水素と、岩のなかの酸素が結びつき、水ができました。
しかもその量は、予想の最大1000倍にもなりました。
遠くの惑星の大気で考えられていたことが、目の前の実験台でも起きていたのです。
条件がそろえば、岩でできた惑星は、よそからもらわなくても自前で水を持てるらしいのです。
それでも、外から運ばれた水を疑う理由が消えたわけではありません。
初期の地球がそれだけの水素をためこめたかは分からず、地球は、できるかどうかの境目あたりにあります。
最近は、地球に似た水をもつ彗星もいくつか見つかり、外来説にもふたたび目が向けられています。
ある研究者は、すべての組み合わせだろうと見ています。
海の水は、ずっとそこにあったのではなく、外から届いたものと、この惑星の上で生まれたものとの混ざりものなのかもしれません。
たしかなことは、まだ誰にも分かりません。
コップに注いだ一杯の水。
それを満たしているのが、よそから来た旅人なのか、この惑星が生まれてまもなくこしらえた古い水なのか。
切り分けられないまま、今日も一口、口にふくみます。
参考文献:
Andrews RG. Where did Earth get its oceans? Maybe it made them itself. Quanta Magazine. Published June 12, 2026. Accessed June 13, 2026.

