フランクリンも数えていた — おならの「ふつう」をめぐる36万回

フランクリンも数えていた — おならの「ふつう」をめぐる36万回

  

1781年、ベンジャミン・フランクリンは、自分が1日に「腸から風を出す」回数を7回と書き残しました。

いたずら心も混じる、妙にまじめな記述です。

電気の実験で知られ、合衆国建国にも名を連ねる人物が、そんな体の出来事にも目を向けていた。

それからおよそ245年後、オーストラリアで6416人が、同じことをスマートフォンで始めました。

集まった記録は、360,192回。

夕食のあとに足される、そんな1回も含めての数字です。

 

おならは、これまでおもに病気や症状の側から調べられてきました。

健康な消化の一部でもあるのに、「ふつうの人が1日に何回出すのか」は、長らく宙ぶらりんのままでした。

栄養学の教科書は「1日5回から20回」を正常の範囲とします。

けれどもこれは食物繊維の量をもとにした目安で、普通の暮らしの中で大人数がその場で数えた値とは違います。

多くの人が気にするのは、自分がその枠から外れていないか、という一点です。

 

ここで研究者たちが向き直ったのは、「誰が多すぎるのか」という見方ではありませんでした。

ありふれた1日に、それはどれくらい起きているのか。

逸脱した人を探すのではなく、普通の人が普通の日に何回出すのかを、ただ数えてみる。

それだけのことが、長いあいだ手つかずでした。

 

やり方は単純です。

アプリを入れた人が、出したあとできるだけ近い時刻に画面へ記録します。

誰の記録も他人には見えず、自分の分だけを見返せます。

見栄を張りにくい設計です。

平日2日と週末1日以上、できるだけその場で。

ふつうの人の回数を、大規模に、しかも出したその場で集めた試みは、研究チームの知る限り、これが初めてでした。

こうして、起きている間の1回ずつが記録として残りました。

 

出てきた答えは、思っていたより控えめでした。

自己記録での中央値は、1日3.8回。

およそ8割の人が、2回から7回の間に収まります。

男性が女性よりわずかに多く、14歳から25歳の層がいちばん少ない。

時間帯で見ると、日中にいったん少なくなり、18時から22時にかけて回数が増えました。

食事と食物繊維をとる時間帯と、ちょうど重なっています。

 

別の道からも、似た輪郭が見えてきます。

1991年、肛門に器具を入れて測った実験では、24時間で中央値8回。

今回のアプリでは、およそ4回。

フランクリンの7回や実験室の値より少なめですが、その差にも理由があります。

今回の数え方では、眠っている間の分を記録しにくいからです。

1回あたりの量も33ミリリットルから125ミリリットルまで幅があり、回数だけでは多い少ないを決められません。

出すのを我慢することもできますし、「多い」と感じるかどうかも本人しだいです。

 

だから、自分の回数が平均より多いか少ないかは、思っていたほど重い問題ではないのかもしれません。

360,192回は、6416人がそれぞれの夕方に、1つずつ残していった跡です。

今夜、夕食を終えてしばらくしたころ。どこかの家で、もう我慢しなくてよくなった1回が、同じ時間帯に起きているかもしれません。

 

参考文献:

Brindal E, Baird D. Regular Flatulence Patterns Among Community-Dwelling Individuals in Australia. JAMA Netw Open. 2026;9(5):e2615637. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.15637

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。