足元ではなく、斜め下流に

足元ではなく、斜め下流に

 

浅い川に足を入れると、足の後ろで水が小さく巻きます。

流れがぶつかってできた乱れは、足のすぐ後ろにあって、少し下流へ行けば消えていく。

乱れがおよぶのは、それを生んだものの足元あたり。

海底に残る跡も、そのそばにあるはずだ。

浅瀬に立った足が、そう感じています。

 

海の上に立つ風力発電の風車も、水の中では太い杭が一本、海底に刺さっています。

直径はおよそ5メートル。

これが潮の流れを受ければ、足元の砂が少し掘れる。

これまで詳しく調べられてきたのも、その足元の輪のあたりでした。

土台がぐらつかないよう、杭のそばだけを見ていればよかったのです。

世界中の評価でも、洋上風力発電所が海底を変えるのは敷地のおよそ1%、杭のまわりのわずかな輪だけ、とされてきました。

ところがイギリス沖の発電所を測った調査では、杭から200メートル離れた海底で、砂の模様がごっそり消えていました。

 

200メートルといえば、杭の太さの40倍以上です。

足元の輪では、とても届きません。砂を動かしている力は、杭のそばだけにあるわけではなさそうです。

では何が、そんな遠くまで砂を動かしたのか。

潮の流れそのものは、杭の後ろではむしろ弱まります。

それでも砂が動くなら、鍵は流れの速さではなく、流れがちぎれてできる、目に見えない乱れのほうにあります。

 

水槽の中に、同じ形の杭を一本立てます。

流れは弱く調整してあり、平均の流れだけなら、実験で使った砂はほとんど動かない条件でした。

それでも杭の後ろでは砂が動き、波模様ができた。

模様は、杭の太さの17倍も下流まで続いていました。

しかも、できた場所は真後ろではありません。

左右へ少しずれた帯に並んでいたのです。

平均の流れにその力がないのなら、残るのは、流れがちぎれた先の乱れだけ。

左右にずれたその場所で、乱れは底へ潜り込み、砂を運んでいました。

模型と数値モデルでは、底にかかる力が背景値の最大24倍に達していました。

 

本物の海でも、跡は残っていました。

イギリス沖で動いている発電所の海底を測ると、砂の波模様がはがれ落ちた帯が見つかります。

あの、杭から200メートル離れて消えていた模様です。

場所は、やはり真後ろを外れ、左右へ斜めにのびていました。

はがれた下からは、ふだん砂に隠れている砂利がのぞいています。

砂が動いただけではなく、海底の表面そのものが入れ替わっていたのです。

実際の海でも、乱れから計算した底への力は、平均の流れだけで見た場合の3〜5倍に達していました。

それでも海底への影響を見積もる式は、長く平均の流れだけを使い、この乱れを外に置いてきたのです。

 

もっとも、海底がどれだけ動くかは、場所ごとに違います。

砂が細かければ広く、砂利のように粗ければ狭い。

潮の強さでも変わるので、「何%」と一律には言えません。

それでも、これまで見ていた輪の外――見ていなかった脇のほうにも、変化の場所がありました。

この研究の試算では、発電所が海底を変える範囲は、1%程度ではなく、3〜8%まで広がる可能性があります。

 

今度、浅い海や川で流れの中に立つことがあったら、足のすぐ後ろではなく、少し離れた斜め下流に目を向けてみてください。

水面は何ごともなく流れています。

けれどその下、見えないところで、足がつくった乱れが砂を動かしている。

跡が残るのは、たぶん、いま見ているその一点ではなく、もう少し脇の、少し先です。

 

参考文献:

Unsworth, C.A., McCarron, C.J., Whitehouse, R.J.S. et al. Turbulence drives seabed modification by offshore windfarms. Nat Commun (2026). https://doi.org/10.1038/s41467-026-73089-x

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。