ギザの大ピラミッドの前に立つと、その大きさに圧倒されます。
完成したのは、いまからおよそ4600年前。
それから今日まで、半径80kmほどの範囲で地震が何度も起きてきました。
表面を覆っていた化粧石が落ちたことはあっても、本体が大きく崩れたことは知られていません。
私たちはつい、これだけ重くて頑丈なのだから持ちこたえたのだろう、と考えます。
重さと強さこそが、生き残った理由だと。
けれども、揺れに壊されるかどうかを決めるのは、強さだけではありません。
公園のブランコを思い浮かべてください。
でたらめな間隔で押しても、ブランコはほとんど動きません。
ところが、ブランコ自身が揺れる拍子に合わせて押すと、1回ごとの力は小さくても、揺れはどんどん大きくなっていきます。
揺れを育てるのは力の強さではなく、拍子が合うかどうかなのです。
そう考えると、ピラミッドについて知りたいことも変わってきます。
どうやって地震に耐えるほど頑丈に造ったのか、ではなく、ピラミッドは足元の地面と同じ拍子で揺れるのか。
研究チームが調べたのも、まさにそこでした。
ピラミッドが、どのくらいの速さの揺れに乗りやすいのか。
その固有の拍子を、内側から測ろうとしたのです。
そのために、王の間、女王の間、通路、その上の小部屋、そして外の地面まで、合わせて37か所に感度の高い装置を置きます。
どんな場所にも、人の暮らしや海の波や風がつくる、ごく弱い揺れがいつも満ちています。
その弱い揺れを高感度のポータブル測定器で記録すると、それぞれの場所が乗りやすい拍子が読み取れます。
石にも地面にも傷をつけず、ピラミッドの内側から揺れの性格を調べる方法です。
ピラミッドの石も、内側の部屋も通路も、その多くが1秒におよそ2.3回の拍子で揺れます。
場所が違っても、ほぼ同じでした。
一方、外の地面は1秒におよそ0.6回。ずっとゆっくりした拍子です。
2つは、ほとんど噛み合いません。
地震はそのゆっくりした地面を通って届きますが、速い拍子のピラミッドは、遅い拍子に乗りにくいのです。
そして、高いところほど揺れは大きくなります。
地面の揺れを1とすると、王の間のあたりで4まで増えていました。
ところが、そのさらに上―重さを逃がすための小部屋が積み重なった場所では、4が3へと、むしろ下がっていたのです。
地面とピラミッドの拍子が合いにくいこと。
そして、いちばん高い小部屋で、揺れへの反応がかえって小さくなっていたこと。
別々に出てきたこの2つは、どちらも強さの話ではありません。
ピラミッドが残ってきた理由を、壊れないほど強いから、だけでは片づけにくくなります。
地面の揺れと拍子が合いにくかったこと。
そして、揺れが集まりそうな場所で反応が小さくなっていたこと。
この2つが、長く立ち続けた理由の一部として見えてきます。
研究者たちは慎重で、昔の人がこれを狙って造ったとまでは言いません。
測れるのは結果であって、つくり手の意図ではないからです。
こう知ったあとでは、古いものの見え方が少し変わります。
長く残ってきたものを前にしたとき、どれだけ頑丈か、ではなく、どんな拍子をもっているのか、そのまわりの世界とその拍子は合うのか合わないのか、と考えたくなります。
いちばん強く抵抗したものが残るとは、かぎらないのかもしれません。
砂漠に残る巨大な三角形は、力で押し返した建物ではなく、地面とは違う拍子をもっていた建物として見えてきます。
参考文献:
ELGabry, M., Hamed, A., Yoshimura, S. et al. Architectural and geotechnical aspects affecting earthquake resilience for the antique Egyptian Khufu pyramid. Sci Rep 16, 14032 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-026-49962-6

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
