夜の森で、サンショウウオは何色だったのか ― ファイアサラマンダーの皮膚分泌物に見えた青緑の合図

夜の森で、サンショウウオは何色だったのか ― ファイアサラマンダーの皮膚分泌物に見えた青緑の合図

 

ヨーロッパでよく調べられてきた両生類の一つに、ファイアサラマンダーがいます。

黒地に黄色い斑(まだら)模様を持ち、毒を持つ生きものです。

その派手な色彩は、「食べるな」と知らせる警告色の代表例として、長く教科書的に扱われてきました。

触るな、食べるな、面倒なことになるぞ。

ずいぶん親切な表示にも見えます。

けれども、それは昼の光の中での読み方です。

 

光を吸って別の色で返す生体蛍光は、以前は海の生きものや昆虫で目立つ話題でした。

ところが近年、カメレオンやカエルなど、陸の脊椎動物でも紫外線を当てたときだけ見える光の模様が報告されてきました。

昼の色だけでは、動物の見え方を拾いきれない。

見る道具を変えなければ、見えるものは変わりません。

研究者たちはその流れの中で、ファイアサラマンダーを紫外線の下に置いてみました。

 

新種でも、秘境の動物でもありません。

よく知られた生きものを、別の光で見直しただけです。

2024年から2025年にかけて、スペインとドイツで個体が調べられました。

365nmの紫外線を当てると、スペイン・カタルーニャで見つかった12個体のうち10個体に、明るい斑点状の蛍光が確認されました。

幼生では、外から見える蛍光は確認されませんでした。

光る点は背中全体ではなく、体の横や腹側に多く、黒い部分より黄色い部分で目立ちました。

問題は、サンショウウオが何色かではなくなります。

その色は、どんな光の下で、誰に届く可能性があるのか。

 

青緑の点は、皮膚の模様だけでは片づきませんでした。

研究者たちは、腺から出る分泌物を集め、フィルターを変え、ガラス板の上でも調べました。

体表で見えた光は、分泌物そのものにもありました。

シアンから緑色の蛍光です。

しかも、その分泌物はコケの上に残ったあとも、少なくとも24時間は蛍光を保っていました。

色は体に貼りついた飾りではなく、体から外へ出たあとにも残る痕跡でした。

 

顕微鏡の視野では、光の居場所がさらに絞られていきます。

強い蛍光は表皮や顆粒腺、耳の後ろの大きな腺に見られ、周囲の結合組織より6〜7倍ほど強くなっていました。

蛍光の寿命、つまり光ってから消えるまでのごく短い時間を測ると、腺の分泌物と血液成分でよく似た値が出ました。

血液と腺のあいだに、同じ種類の光る分子が関わっている可能性があります。

ただし、分子の正体はまだ確定していません。

ファイアサラマンダーで知られてきた毒成分だけでは説明しにくく、まだ名前のついていない別の物質が関わっているのかもしれません。

 

夜の森に戻すと、この光の意味合いが変わります。

ファイアサラマンダーは夜行性で、繁殖期には林床や水辺で活動します。

満月の光には、紫外から紫に近い成分が相対的に多く含まれます。

繁殖期の秋には、月明かりが森の床まで届きやすくなります。

青緑の蛍光は、暗い地面やコケを背景にすると目立ちます。

ファイアサラマンダー自身の目については、まだ直接には確かめられていません。

ただ、多くの両生類には、暗い場所で青や緑の光を受け取りやすい仕組みがあります。

雄が頭を上げる姿勢をとると、蛍光の多い喉のあたりが外から見えやすくなります。

 

それでも、見えることと、相手がそれを使っていることは同じではありません。

実際の森に近い条件で、仲間や捕食者の行動が変わるかどうかを確かめる必要があります。

光る分子の正体や亜種ごとの違いは、まだ課題として残っています。

けれど、放たれた分泌物の光は、その後も24時間以上、コケの上に残っていました。

本体はもう去ったのに、光だけがそこにある。

見慣れた黒と黄色の生きものは、私たちが当てたことのない光の下で、別の合図を残していたのかもしれません。

 

参考文献:

Bernat Burriel-Carranza, Andrés E. Brunetti, Margarita Skamnelou, Jorge Escudero, Maria Estarellas, Sergi Tulloch, Gabriel Riaño, Xavier Rivera, Maria-Dolors Piulachs, Tobias Engl, Benjamin Weiss, Martin Kaltenpoth, Salvador Carranza; Glandular biofluorescence in fire salamanders (Salamandra salamandra): first evidence and ecological implications. R Soc Open Sci. 1 May 2026; 13 (5): 251991. https://doi.org/10.1098/rsos.251991

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。