以前、私の実家の庭にはバンシルーの木がありました。
時期になると、たくさんの実をつけたものです。
沖縄でバンシルーと呼ばれるこの実は、グアバと言った方がわかりやすいでしょう。
実をしぼれば、赤みがかったジュースになります。
甘い香りと、とろりとした口当たり、軽い酸味。
どこにでもある、やさしい飲みものです。
鉄分がたっぷり詰まっているわけでもありません。
ところが、ある調査では、この1杯を鉄剤と一緒に飲んだ妊婦たちのヘモグロビンの伸びが、鉄剤だけの人たちの3倍を超えていました。
貧血と聞くと、多くの人は鉄が足りない状態を思い浮かべます。
足りないなら足せばよい、という単純な話です。
鉄分を多めにとり、足りなければ鉄剤で補う。
ところが、鉄の量で勝負するわけではないあの1杯が、なぜ大きく差をつけたのか。
この小さな調査では、差が出たところまでは見えています。
次に見たいのは、その差がどこで生まれたのかです。
妊娠中の貧血は、世界の多くの地域でいまも続く問題です。
インドネシアでは妊婦のおよそ3割とされます。
母体と赤ちゃんへ送る鉄が増える時期に、血液そのものは薄まりやすい。
だから鉄剤が広く処方されます。
ところが鉄は、もともと体に取り込まれにくい物質です。
胃や腸を通るだけでは、そのまま血液の材料になるわけではありません。
飲んだ量が、そのまま届くわけではないのです。
インドネシアの研究チームは、この違いを確かめるために、貧血のある妊婦32人を半分ずつ2つの組に分けました。
一方には、これまで通り鉄剤だけを飲んでもらいました。
もう一方には、同じ鉄剤に加えて、赤いグアバ100gで作ったジュースを1日1杯、7日間一緒に飲んでもらいました。
始める前と後でヘモグロビン値を測りました。
ヘモグロビンは、貧血の程度を見る代表的な検査値です。
グアバジュースを一緒に飲んだかどうかで比べたのです。
出発点は、どちらの組も平均ヘモグロビン値が8.7g/dL前後でした。
妊娠中は11.0g/dLを下回ると貧血とされますから、低い値からのスタートです。
7日後、鉄剤だけの組は平均で0.6g/dL上がり、グアバを足した組は2.019g/dL上がっています。
鉄剤だけの組は9.5g/dLに届かず、グアバの組は10.8g/dL近くまで来ていました。
同じ7日間、同じ鉄剤です。
研究で比べたのは、グアバジュースを一緒に飲んだかどうかでした。
なぜ、鉄を補う量が多くない1杯で差が出たのか。
手がかりは、グアバに多く含まれるビタミンCです。
植物に含まれる鉄は、そのままでは体に取り込まれにくい形をしています。
ビタミンCが多いと、その鉄は吸収されやすい形へ変わります。
ジュースで胃の中が酸性に傾くことも、鉄が溶け出すのを助けます。
鉄剤をお茶で飲まないほうがよい、と言われてきたのも、同じ吸収の問題に関わります。
グアバは鉄を増やしたというより、すでに飲んでいる鉄が体に入りやすくなる条件をそろえていたのかもしれません。
それでも、この研究で見えたのは、グアバが万能だという話ではありません。
対象は貧血のある妊婦で、人数も期間も限られています。
ただ、妊娠中の貧血に対して、鉄剤を飲むだけでなく、その鉄が体に入りやすくなる条件を整えるという見方は残ります。
今回のグアバジュースは、その小さな一手として、よい方向に働いた可能性がありました。
鉄剤の隣に置かれた赤い一杯は、薬だけを見ていた目を、食卓の組み合わせへ少し広げてくれます。
参考文献:
Anita W, Halimah S, Zalni RI, Pesa YM, Safitri RA. Effect of guava juice on Hb levels in pregnant women with anemia. ASTEEC Conference Proceeding: Applied Science. 2025.

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
