乾季の池では、水位が下がると、ふだん隠れていた泥の面があらわれます。
魚の跡、割れた土、流木、小石。
そこに少しだけ違うものが混じっていても、最初はただの石に見えるかもしれません。
2016年、タイ東北部チャイヤプーム県の共同池のほとりで見つかった骨も、そんな日常の裂け目から出てきました。
恐竜などの巨大生物なら、見つかった瞬間に正体がわかる。
私たちはどこかでそう思っています。
大きいものは、大きいまま証拠になるはずだ、と。
ところが化石の現場では、体の大きさだけでは名前も親戚関係も決まりません。
27メートル級の体を思わせる骨が出ても、手がかりになるのは背骨の突起、上腕骨の丸み、大腿骨の断面です。
巨大なのに、読むべき文字は細部に刻まれていました。
今回の研究で扱われたのは、バン・パー・ナン・スア産地から見つかった部分骨格です。
背骨、仙骨、肋骨、右上腕骨、骨盤の一部、大腿骨などがまとまっていました。
重複する骨がなく、大きさもそろい、近い場所から出ているため、研究チームは同じ1個体のものと考えました。
新しい名は、ナガティタン・チャイヤプーメンシス。
水と結びつく神話の蛇「ナーガ」と、巨大さを表す「タイタン」が重なった名です。
名前がつくと、恐竜は図鑑の1ページに収まったように見えます。
けれど、本当に難しいのはその先です。
その生き物を、ほかの恐竜たちとの関係の中でどこに置くのか。
研究者たちは、153分類群、570形質を使って系統解析を行いました。
ナガティタンは、竜脚類の中でもユーへロプス科に近い仲間として位置づけられます。
復元図の迫力ではなく、骨のわずかな違いから、系統上の位置が絞られていきました。
東南アジアには、プウィアンゴサウルスやタンヴァヨサウルスという近い時代の竜脚類が知られています。
場所も時代も近い。
体も大きい。
ならば、ナガティタンも同じ地方で枝分かれした一族と考えたくなります。
けれど、570形質を比べた解析は、その見方を支えませんでした。
ナガティタンは、プウィアンゴサウルス、タンヴァヨサウルスと3者だけでまとまる地方グループではなかったのです。
同じ地域にいた巨大な竜脚類たちは、同じ名札を貼れる仲間ではありませんでした。
背骨の突起、上腕骨の形、大腿骨の向きの違いが、それぞれ別の来歴を残していました。
赤い泥の中から出てきたのは1頭の新種であると同時に、東南アジアの恐竜世界を単純なご当地名簿にできないという事実でした。
体の大きさを比べても、同じ時代の変化が見えてきます。
ナガティタンの推定体重は25〜28トン、体長は約27メートルです。
東南アジアで知られる竜脚類の中では最大級です。
アジアの近縁グループを並べると、アプチアン期以降に20トンを超える種類が目立ってきます。
気温が上がり、乾いた草原・低木林のような環境が広がる中で、大型化しやすい条件がそろっていたのかもしれません。
骨の形、親戚関係、体重、古い環境。別々に見える材料を重ねると、東南アジアの白亜紀が少し立体的に見えてきます。
この見方は、まだ完成版ではありません。
骨格は全身ではなく、系統解析の位置づけは方法によって少し変わります。
プウィアンゴサウルスやタンヴァヨサウルスの再検討が進めば、関係の説明も変わるかもしれません。
池のほとりから出た部分的な骨は、東南アジアの恐竜世界を少し広く見せました。
乾いた池の底や赤い土は、ふだんなら足もとにあるだけです。
けれど、そこに何かの端が出ていたら、もう以前と同じようには見過ごせません。
石かもしれません。
骨かもしれません。
少なくとも、しゃがんで見る理由くらいはありそうです。
参考文献:
Sethapanichsakul, T., Khansubha, SO., Manitkoon, S. et al. The first sauropod dinosaur from the Lower Cretaceous Khok Kruat Formation of Thailand enriches the diversity of somphospondylan titanosauriforms in southeast Asia. Sci Rep 16, 12467 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-026-47482-x

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
