「国民の何%が、陰謀論を信じている」
そんな見出しを見ると、私たちはつい、「ああ、そういう人たちがいるのだ」とひとまとめに見てしまいます。
少し距離を置き、ときには色眼鏡で眺めてしまう。
調査票に付いた1つの丸印が、そのまま信念の証拠に見えるからです。
けれど、その丸印は、果たして本気なのでしょうか。
急いで押した指、冗談、反抗、退屈しのぎ。その小さな動きまで、数字の中では同じ「同意」として数えられます。
心理学では、この10年で陰謀論についての調査が数多く行われてきました。
コロナをめぐるさまざまな主張が広がった時期には、この分野への関心はいっそう強まりました。
けれど、そこには測定の問題が残ります。「アンケートで肯定する」ことと「実際に信じている」ことを、同じものとして扱ってよいのか。
冗談で答える人、からかい半分の人、当てずっぽうの人。
本気で信じている人の回答と、それらは同じ集計の中に並びます。
そしてその数字は、報道の見出しや政策議論の土台にもなってきました。
研究チームは、ニュージーランドの成人810人を対象にしたオンライン調査に、2つの仕掛けを置きました。
ひとつ目は、実在する陰謀論のリストに、ばかげた偽の話を混ぜることです。
「カナダ軍が、遺伝子操作された超賢い巨大アライグマ軍団を秘密裏に育てている」
ここで見ようとしたのは、何%が信じているか、ではありません。
「信じる」と答えた集まりの中に、何が混じっているか、です。
ふたつ目は、調査の最後に「途中で冗談やからかいで答えましたか」と直接尋ねることでした。
報酬は答え方によらず支払う、と伝えたうえでの質問です。
集計すると、8.3%が本気でない回答をしたと申告し、7.2%が巨大アライグマ軍団の話に同意していました。
どちらか一方でも当てはまった人は、全体の13.3%です。
この13.3%は、実在する陰謀論にも高く同意していました。
そのため、全員をそのまま数えると、陰謀論を信じている人の割合は、本気らしい回答者だけを見た場合より1.2倍から2.4倍ほど大きく見積もられました。
割合だけを見ると、どれも同じ「同意」に見えます。
けれど中身を分けると、本気らしい丸印と、そうではなさそうな丸印で、数字の見え方は変わりました。
研究チームは、リストの中に矛盾する2つの陰謀論も忍ばせました。
「コロナウイルスは存在しない」と「5G通信がコロナウイルスを広げる」
コロナウイルスがそもそも存在しないなら、5Gが広げる相手もないはずです。
両方に同意した人は、本気らしい回答者では1.3%でした。
ところが、本気でない可能性のある回答者では23.1%に上りました。
さらに、矛盾する2つの陰謀論に両方とも同意した人の73.5%は、この13.3%の側に含まれていました。
これまで研究者は、矛盾する陰謀論を両方信じる人がいることを、「陰謀論を信じる人の考え方には一貫性がないのではないか」という方向で説明してきました。
今回の研究を踏まえると、その説明は少し慎重に扱う必要があります。
両方を「本当だ」と答えた人の多くは、もしかすると、本気では信じていなかったのかもしれません。
ただし、研究チーム自身は慎重です。
巨大アライグマ軍団の話に同意した人に理由を尋ねても、はっきり「冗談です」と答えた人は3人にとどまりました。
この方法でつかまえられる冗談には、漏れも誤検出もありえます。
丸印を疑っても、信念をめぐる問題まで消えるわけではないのです。
もちろん、この研究の判定法も万能ではありません。
巨大アライグマ軍団の話に同意した人の中には、本当に何かありうると思った人や、質問の確率表現を取り違えた人もいたかもしれません。
対象はニュージーランドのオンライン調査です。
それでも、この研究で確かめた見方は、日常で数字を見るときにも使えます。
画面に並ぶ割合の背後には、信念だけでなく、退屈、冗談、早押し、反抗も混ざっているかもしれません。
数字の向こうには、「信じている人」だけでなく、「そう答えた人」もいます。
参考文献:
Matt Williams, Mathew D. Marques, Mathew Ling, Stephen Hill, John Kerr, Edward J.R. Clarke, Ahnya Martin, Robert Ross; Do you really believe that? Examining the prevalence and predictors of belief in conspiracy theories when accounting for insincerity. R Soc Open Sci. 1 May 2026; 13 (5): 260163. https://doi.org/10.1098/rsos.260163

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
