外来で栄養の話になると、「卵はどのくらい食べてもいいのでしょうか」と聞かれることがあります。
すぐに答えられそうで、案外そうでもありません。
卵は長いあいだ、食卓の人気者であり、少し疑われてきた食材でもあります。
コレステロールが心配だという声があります。
手軽で栄養が詰まっているという声もあります。
どちらの言い分にも、それなりの理由があります。
卵の話は、すぐに小さな裁判になります。
食べてよいのか。
控えるべきなのか。
ところが、この論文を読んでいると、気になってくるのは卵をたくさん食べた人たちではありません。
むしろ、ほとんど食べない人たちです。
卵の善悪を決めるつもりで皿を眺めていたら、そこに「ゼロ」という別の手がかりがありました。
研究チームは、米国のアドベンチスト健康研究2という大規模な追跡研究を使いました。
対象は39,498人。
平均15.3年のあいだ追い、その間に2,858人がアルツハイマー病と診断されています。
食事は質問票で、診断はメディケアの記録で確かめています。
卵を食べる人たちは、ほとんど食べない人たちに比べて、アルツハイマー病になりにくい側に出ていました。
卵をほとんど食べない人たちを1.00として置くと、卵を食べる人たちの数字は、おおむね0.83から0.73です。
つまり、卵を食べる人たちのほうが、診断される割合が低かったと読み取れます。
食べる回数ではなく、1日あたりの量で見直しても、まったく食べない人たちは高めに出ていました。
派手な差ではありません。
けれど、「ゼロ」の場所だけ、少し濃く見えます。
年齢、性別、人種、教育、BMI、運動、睡眠、喫煙、飲酒、ほかの食品群、持病をそろえても、ナッツや豆類との置き換えを想定しても、菜食者を除いて見ても、関係の向きは大きく変わりませんでした。
卵黄には、コリン、DHA、ビタミンB12、リン脂質など、神経の働きや細胞膜に関わる栄養素が含まれています。
ルテインやゼアキサンチンも、記憶や考える力との関わりで名前が出る成分です。
卵は魔法のカプセルではありません。
薬でも、お守りでもありません。
それでも卵1個の中には、脳が長い時間をかけて使う材料が、いくつも同居しています。
卵を万能視する必要はありません。
ただ、コレステロールだけで眺めるには、少しもったいない食材です。
この研究には、注意して読みたいところもあります。
人の食事を変えて試した実験ではなく、いつもの食事をたどった研究です。
「卵を食べたから防げた」とまでは言えません。
食事の評価は主に登録時点で、途中の変化を完全には追えていません。
メディケア記録を使うため、軽い症状の人が見落とされた可能性もあります。
解析には卵関連団体からの研究費も使われています。
論文では、研究設計や解析、解釈には関与していないとされていますが、その点も頭の片隅に置いたまま読みたいところです。
外来でまた卵の話が出たら、私はたぶん、すぐに「食べなさい」とも「控えなさい」とも言わない気がします。
コレステロールや持病の条件は見ながら、卵には脳に関わる栄養もいくつか含まれていることを、まず共有すると思います。
卵を割る音が、明日の記憶を守るわけではありません。
それでも、卵の話をコレステロールだけで終わらせるのは、少し早いのかもしれません。
参考文献:
Oh J, Oda K, Chiriac G, Fraser GE, Sirirat R, Sabaté J. Egg Intake and the Incidence of Alzheimer’s Disease in the Adventist Health Study-2 Cohort Linked with Medicare Data. J Nutr. Published online April 17, 2026. doi:10.1016/j.tjnut.2026.101541

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
