卵は、控えたほうが安心なのか ― 39,498人を15年追って見えた、食卓とアルツハイマー病の関係

卵は、控えたほうが安心なのか ― 39,498人を15年追って見えた、食卓とアルツハイマー病の関係

 

外来で栄養の話になると、「卵はどのくらい食べてもいいのでしょうか」と聞かれることがあります。

すぐに答えられそうで、案外そうでもありません。

卵は長いあいだ、食卓の人気者であり、少し疑われてきた食材でもあります。

コレステロールが心配だという声があります。

手軽で栄養が詰まっているという声もあります。

どちらの言い分にも、それなりの理由があります。

 

卵の話は、すぐに小さな裁判になります。

食べてよいのか。

控えるべきなのか。

ところが、この論文を読んでいると、気になってくるのは卵をたくさん食べた人たちではありません。

むしろ、ほとんど食べない人たちです。

卵の善悪を決めるつもりで皿を眺めていたら、そこに「ゼロ」という別の手がかりがありました。

 

研究チームは、米国のアドベンチスト健康研究2という大規模な追跡研究を使いました。

対象は39,498人。

平均15.3年のあいだ追い、その間に2,858人がアルツハイマー病と診断されています。

食事は質問票で、診断はメディケアの記録で確かめています。

 

卵を食べる人たちは、ほとんど食べない人たちに比べて、アルツハイマー病になりにくい側に出ていました。

卵をほとんど食べない人たちを1.00として置くと、卵を食べる人たちの数字は、おおむね0.83から0.73です。

つまり、卵を食べる人たちのほうが、診断される割合が低かったと読み取れます。

食べる回数ではなく、1日あたりの量で見直しても、まったく食べない人たちは高めに出ていました。

派手な差ではありません。

けれど、「ゼロ」の場所だけ、少し濃く見えます。

年齢、性別、人種、教育、BMI、運動、睡眠、喫煙、飲酒、ほかの食品群、持病をそろえても、ナッツや豆類との置き換えを想定しても、菜食者を除いて見ても、関係の向きは大きく変わりませんでした。

 

卵黄には、コリン、DHA、ビタミンB12、リン脂質など、神経の働きや細胞膜に関わる栄養素が含まれています。

ルテインやゼアキサンチンも、記憶や考える力との関わりで名前が出る成分です。

卵は魔法のカプセルではありません。

薬でも、お守りでもありません。

それでも卵1個の中には、脳が長い時間をかけて使う材料が、いくつも同居しています。

卵を万能視する必要はありません。

ただ、コレステロールだけで眺めるには、少しもったいない食材です。

 

この研究には、注意して読みたいところもあります。

人の食事を変えて試した実験ではなく、いつもの食事をたどった研究です。

「卵を食べたから防げた」とまでは言えません。

食事の評価は主に登録時点で、途中の変化を完全には追えていません。

メディケア記録を使うため、軽い症状の人が見落とされた可能性もあります。

解析には卵関連団体からの研究費も使われています。

論文では、研究設計や解析、解釈には関与していないとされていますが、その点も頭の片隅に置いたまま読みたいところです。

 

外来でまた卵の話が出たら、私はたぶん、すぐに「食べなさい」とも「控えなさい」とも言わない気がします。

コレステロールや持病の条件は見ながら、卵には脳に関わる栄養もいくつか含まれていることを、まず共有すると思います。

卵を割る音が、明日の記憶を守るわけではありません。

それでも、卵の話をコレステロールだけで終わらせるのは、少し早いのかもしれません。

 

参考文献:

Oh J, Oda K, Chiriac G, Fraser GE, Sirirat R, Sabaté J. Egg Intake and the Incidence of Alzheimer’s Disease in the Adventist Health Study-2 Cohort Linked with Medicare Data. J Nutr. Published online April 17, 2026. doi:10.1016/j.tjnut.2026.101541

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。