ランニングシューズで足の故障は防げるのか――成人ランナー1万1240人と12試験で見た、靴選びと下肢傷害

ランニングシューズで足の故障は防げるのか――成人ランナー1万1240人と12試験で見た、靴選びと下肢傷害

 

ランナーは靴売り場で、少しだけ未来を買っています。

厚いクッション、軽い素材、足の倒れ込みを抑える構造、足型を見て選んでもらう一足。

どれも「これなら痛めにくい」と思わせます。

値札を見ると、先に財布のほうが痛みそうですが、その痛みすら「いい靴なら仕方ない」と思えてくる空気があります。

膝を守りたい。

すねの痛みを避けたい。

足裏の不安を消したい。

高機能な靴ほど、身体の不確かさを減らしてくれそうに見えます。

 

ランニングは、健康に役立つ身近な運動です。

けれど同じ動きを何千歩も繰り返すため、膝、すねやふくらはぎ、足首、足裏には負担が積み重なります。

そこでシューズづくりでは、衝撃をやわらげる、足の動きを制御する、裸足に近づける、足型に合わせる、といった考え方が積み重ねられてきました。

そう言われれば、たしかに筋は通ります。

足が内側へ倒れすぎるなら支える。

衝撃が強いなら吸収する。

ただ、その考え方で本当にけがが減るのかは、別の問題として残っていました。

 

研究チームが集めたのは、成人ランナーをいくつかのグループに分け、違う靴を履いてもらった試験です。

対象は、趣味として走る人と、訓練で走る軍関係者でした。

12件の試験、計1万1240人分が含まれ、6〜26週間のあいだ、走るなかで脚まわりを痛めた人がどれくらい出たかを追いました。

比べたのは、クッション性のある靴、ミニマリスト靴(裸足に近い設計の靴)、足の動きを抑える靴、安定性重視の靴、柔らかいミッドソール(靴底の中間層)、足型に基づく靴選びです。

靴の名前ではなく、設計の違いがけがの数に表れるかが見られました。

 

最初に崩れたのは、「厚ければ安心」という見方でした。

クッション性のある靴とミニマリスト靴を比べても、傷害を負った人数に確かな優劣は見えません。

柔らかい靴底にも、硬い靴底を上回る明らかな強みは確認されませんでした。

足の動きを抑える靴や安定性重視の靴では、研究数が少なく、まだ判断しきれない部分が残りました。

さらに、足型に合わせて靴を選んでも、そうしない場合とけがの発生率はほぼ変わりませんでした。

厚さ、柔らかさ、支え、足型。入口は違っても、確信まで届く道は見えてきませんでした。

 

ここで大切なのは、靴を笑い飛ばさないことです。

履き心地は変わります。

走り方も変わることがあります。

痛みの出方や疲れ方、好みも違います。

ただ、けがは靴底だけで決まるほど単純ではありません。

走行距離、練習量の増え方、体重、路面、過去のけが、筋力、疲労、睡眠。その全部が一歩ごとに重なります。

靴は条件の一つであって、身体全体の不確かさを単独で引き受けるものではありません。

 

この研究にも制約があります。

多くの比較では証拠の確かさが低く、傷害の定義や靴の分類にもばらつきがありました。

足型に合わせる方法を調べた研究は主に軍訓練者を対象としており、趣味で走る一般ランナーへ広げるには慎重さが必要です。

ランニング用の靴と、そうではない靴を直接比べた試験も見つかっていません。

 

靴売り場に戻ると、棚の見え方が少し変わります。

厚底、軽量、安定性、足型測定。それぞれに意味はあります。

しかし、それらは「けがを消す答え」ではなく、自分の身体と路面のあいだで働く条件です。

次に靴ひもを結ぶとき、確かめているのは靴の性能だけではないのかもしれません。

 

参考文献:

Relph N, Greaves H, Armstrong R, Prior TD, Spencer S, Griffiths IB, Dey P, Langley B. Running shoes for preventing lower limb running injuries in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews 2022, Issue 8. Art. No.: CD013368. DOI: 10.1002/14651858.CD013368.pub2.

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。