進化は、長い時間と広い空間があって初めて大きく動く。
そう考えると、小さな島の路肩にいる一匹のカエルは、進化の主役には見えません。
ところが石垣島のオオヒキガエルは、その見方を崩します。
わずか十数匹から始まった集団が、100年もたたないうちに、大陸を広がった集団とは別の体つきになっていました。
この種の急速な変化は、これまで主にオーストラリアで語られてきました。
サトウキビ害虫対策として持ち込まれたオオヒキガエルは、大陸を北から西へ広がる過程で、前線の個体ほど脚が長くなり、移動速度も上がっていきました。
広がるほど速くなり、速い個体ほどさらに前へ出る。
急速進化の舞台は、そういう広い前線だと考えられてきたのです。
ところが、同じハワイ系統から分かれた石垣島の集団には、別の条件がありました。
石垣島へ入ったのは1978年、十数匹ほどからです。
島の面積は223平方kmしかありません。
研究者たちは石垣島で80匹を捕獲し、体長、体重、頭幅、前後肢の長さなどを測り、南米、ハワイ、オーストラリアの既存データと比べました。
大陸の前線と、小さな島の内部とで、同じ種の体がどう分かれたかを見たわけです。
測定値は、広い舞台のほうが大きく変わるだろうという予想から外れました。
石垣島の個体は、オーストラリア個体より重く、長く、平均では190g対135g、122mm対111mmでした。
しかも変化は大きさだけではありません。
頭は広く、腕は短く、脚は長い。
雌雄差も広がっていました。
狭い島で、少ない出発点から始まった集団が、大陸を横断した集団とは別の方向へ、しかもかなりはっきりした形でずれていたのです。
石垣島には、大陸の前線のような拡大圧はありません。
代わりにあるのは、年中の雨、水田やサトウキビ畑に支えられた餌条件、捕食圧の低さ、狭い土地の中で雌雄が近い場所を使いやすい事情です。
研究チームも、どの力がどこまで効いたかはまだ特定できていません。
それでも、体重だけでなく、頭幅、前後肢、雌雄差まで、別々の部位が同じ島でそろって動いている。
時間や広さだけでは読み切れないものが、そこに残ります。
もちろん、まだ分かっていない部分もあります。
今回の比較は野外個体どうしなので、この違いが遺伝的変化なのか、育った環境に応じた可塑性なのかは、この研究だけでは切り分けきれません。
ただ、オーストラリアでは、前線と定着地の差の少なくとも一部が子世代にも残り、多くの分散関連形質に遺伝的な土台があることが確かめられてきました。
だから、短い時間では体はそこまで動かない、と最初から決めてしまうのも難しいのです。
夜道のオオヒキガエルは、昨日と同じ名前で呼べます。
けれど、その頭の幅や脚の長さには、この島の水のたまり方や畑の並び、移動距離の短さが、こちらの予想より早く反映されているのかもしれません。
長い時間も広い空間もなくても、体は分かれていく。
石垣島の路肩にいる一匹は、その変化の途中にいます。
参考文献:
Takashi Haramura, Michael Crossland, Richard Shine; Rapid divergence in morphology and sexual dimorphism of invasive cane toads (Rhinella marina) on Ishigaki Island, Japan. R Soc Open Sci. 1 April 2026; 13 (4): 260179. https://doi.org/10.1098/rsos.260179

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
