朝の通勤で1駅ぶん歩く。
昼休みに15分だけ遠回りする。
スマートフォンの歩数計が8,000歩を超えると、今日はよく動いたと思います。
健康のための運動を、私たちは「何分やったか」「何歩歩いたか」で測る癖がついています。
時間と距離は数えやすく、達成感も得やすい。
ただ、その数え方が身体の帳簿と一致しているかどうかは、別の話です。
運動が慢性疾患のリスクを下げることは、多くの研究で確かめられてきました。
国際的な指針も「週に150分から300分の中等度の運動」を推奨しています。
けれど、1つ奇妙なことがあります。
同じ総量を動いているはずの人たちのあいだで、病気のなりやすさにはっきりした差が出ることがある。
量が同じなのに結果が違う。
では、量以外の何が、身体の帳簿に書き込まれているのか。
その疑問を、研究者たちは加速度計で追いかけました。
英国バイオバンクの約96,000人に手首装着型の加速度計を1週間つけてもらい、30秒ごとの加速度データから運動の強度を機械学習で分類しています。
平均年齢は約62歳、追跡の中央値は約9年。
8つの主要慢性疾患と総死亡が記録されました。
総運動量を統計的にそろえたうえで、高強度の割合が4%を超える群と0%の群を比べると、差が現れました。
認知症のリスクが63%低い。
2型糖尿病が60%、脂肪肝が48%、心血管イベントが31%低い。
量は同じです。
違うのは、息が上がる時間がどれだけ含まれていたか、それだけです。
8つの疾患に対する「強度」と「量」の寄与度を、集団寄与割合という指標で並べると、反応の仕方は同じではありません。
免疫が関わる炎症性疾患では、強度の寄与が20.3%であるのに対し、量はわずか1.0%。量の寄与はごく小さい。
認知症でも強度32.3%対量8.1%、心血管イベントで17.8%対6.0%。いずれも強度が量を大きく引き離しています。
ところが、2型糖尿病や脂肪肝、慢性腎臓病、総死亡に目を移すと、強度が量を上回りつつも、量の寄与がしっかり残っていました。
同じ「運動」という入力に対して、炎症を司る経路と代謝を司る経路は、読み取り方が違うのかもしれません。
なお、自己申告の運動データでも方向は同じでしたが、関連の大きさは弱まり、頭打ちの位置もずれていました。
加速度計が拾う数秒間の高強度の動きが、自己申告ではこぼれ落ちるためと考えられています。
この研究は観察研究であり、加速度計の装着も1週間に限られています。
高強度の運動をする人は食事や睡眠などほかの健康行動も良好な傾向があり、その影響を完全には除けません。
因果ではなく、あくまで輪郭です。
帰り道、エスカレーターの隣に階段があります。
2階ぶんを駆け上がったとき、呼吸がわずかに乱れます。
身体は歩数ではなく、その乱れのほうを別の欄に記しているのかもしれません。
けれど、その記録をどの臓器がどう読み取り、どこから病気の差になって現れるのかは、まだ最後まで読まれていません。
参考文献:
Jiehua Wei, Minxue Shen, Shenxin Li, Yi Xiao, Dan Luo, Gerson Ferrari, Dong Hoon Lee, Leandro F M Rezende, Jason M R Gill, Matthew N Ahmadi, Emmanuel Stamatakis, Xiang Chen, Volume vs intensity of physical activity and risk of cardiovascular and non-cardiovascular chronic diseases, European Heart Journal, 2026;, ehag168, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehag168

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
