歓迎会の班分け、初対面の研修、子ども会のワークショップ。
知らない同士でも、同じことを一緒にやれば距離は縮まる。
そう信じて、私たちは輪をつくり、手を打ち、声をそろえます。
ああいう場が何度も組まれるのは、それが人をほぐすと考えられてきたからです。
けれど、同じ活動のあいだに体の中で何が起きているかを測ってみると、その話は、思ったほど単純ではありませんでした。
オキシトシンは、信頼や協力、親密な関わりに関与する神経ペプチド(脳や体内で働く小さなタンパク質)です。
模倣や同期運動がオキシトシンの分泌を促すことは、先行研究で確かめられていました。
ただ、子どもが集団で音楽活動をしたときにオキシトシンがどう動くのかは、まだ十分にわかっていませんでした。
とりわけ、「誰と一緒にやるか」がホルモン応答をどこまで左右するのかは、まだほとんど調べられていない問いでした。
研究チームは、9歳から10歳の女児28名を友人群14名と他人群14名に分け、ファシリテーター(進行役)のもとで20分間のドラムサークルに参加してもらいました。
友人群は同じ学校に通い、放課後にも一緒に遊ぶ間柄です。他人群は互いに面識のない子どもたちです。
唾液は活動の前、直後、20分後の3回採取し、オキシトシンとコルチゾール(ストレスホルモン)を測定しました。
気分の変化も視覚的なスケールで記録しました。
友人群では、ドラム直後にオキシトシン濃度が有意に上昇しました。
他人群では変化しませんでした。
コルチゾールには、両群とも目立った差が出ていません。
それだけなら、友だちと一緒のほうが体も反応した、という話で終わってしまいます。
ところが、気分のデータは別の向きを示しました。
活動後の「楽しかった」「満足した」には群差がなく、前後比較では他人群で幸福感とリラックスが有意に上がり、友人群では大きな変化がみられませんでした。
気分の上向きと体内反応は、同じ方向には動かなかったのです。
なぜ友人群だけでオキシトシンが動いたのか。
研究者らは、この違いを「プライミング理論」で捉えようとしています。
先にある刺激が、次の刺激に反応しやすい状態をつくるという考え方です。
この枠組みで見ると、友人関係が先に「受け取り準備」を整え、そのあとで同期運動が引き金になった、と読むことができます。
身体は音だけでなく、相手との履歴にも反応していたのかもしれません。
ただし、この研究は女児のみを対象とし、各児童は片方の条件にしか参加していません。
待機時間は全員が同じ部屋で過ごしており、友情の深さも数値化されていません。
友人群で上がったオキシトシンの差も、長くは続いていません。
少なくとも最初の20分では、同じ活動に入っただけでは同じ体内反応は起きませんでした。
その差も、20分後には消えています。
輪になって手を打つ場で体が受け取っているのは、その場の音だけではなく、そこへ来るまでの関係の履歴なのかもしれません。
参考文献:
Kikuchi M, Tanaka S, Furuhara K, Higashida H, Tsuji C. Differences in Oxytocin Response Between a Group of Friends and a Group of Strangers Following Facilitated Drum Circle Activities. Brain Behav. 2026;16(2):e71183. doi:10.1002/brb3.71183

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
