動ける人と、動けなくなる人のあいだ―7つのがん種・1万7141人を10年以上追跡した診断後運動とがん死亡

動ける人と、動けなくなる人のあいだ―7つのがん種・1万7141人を10年以上追跡した診断後運動とがん死亡

 

がんと診断されたとき、多くの人はまず「安静にしなければ」と感じます。

体は治療の副作用で消耗し、気力も落ちています。

周囲も「無理しないで」と言います。

運動どころか、日常の買い物や散歩さえためらう人は少なくありません。

「体を動かすことが、今の自分に許されているのか」という迷いは、がんを経験した人に広く共通する感覚です。

 

実際、診断後の生活では活動量が下がることが多いと報告されています。

しかし、全員が同じように動けなくなるわけではありません。

治療を受けながらも歩く時間を保つ人がいます。

軽い運動を再開する人もいます。

この差は単なる個人差なのでしょうか。

それとも、生存に関わる何かが含まれているのでしょうか。

 

これまで運動と生存の関係は、乳がんや大腸がんなどで多く検討されてきました。

一方で、膀胱がん、子宮体がん、腎がん、肺がん、口腔がん、卵巣がん、直腸がんでは十分なデータがありませんでした。

本研究は、診断後の余暇時間に行われる中〜高強度の運動(少し息が弾む程度の活動)が、がんによる死亡とどう関係するかを調べました。

 

対象は6つの大規模コホートに参加していた1万7141人のがん経験者です。

診断から平均2.8年後に、週あたりの運動量を質問票で評価しました。

運動量はMET-h/週という単位で換算され、7.5 MET-h/週(およそ週150分の中強度運動)が一つの基準とされました。

その後、平均約11年間追跡し、主な死因ががんであったかどうかを確認しました。

 

結果は明確な傾向を示しました。

まったく運動しない人と比べ、少しでも体を動かしていた人では、膀胱がん、子宮体がん、肺がんでがん死亡のリスクが低い方向に傾いていました。

肺がんでは、推奨量を満たした群のリスクはおよそ6割程度でした。

口腔がんや直腸がんでは、推奨量の倍以上で低下がみられる傾向もありました。

腎がんなどでは統計的に確定的ではありませんでしたが、推定値は同じ側を向いていました。

 

さらに重要なのは、診断前ではなく診断後の行動です。

診断前に運動習慣がなかった人でも、診断後に基準を満たすようになった場合、肺がんや直腸がんでは死亡リスクが低い方向に傾いていました。

過去の活動歴よりも、診断後の状態が関連している可能性があります。

 

もちろん、これは観察研究です。

体調が悪い人ほど動けないという逆向きの関係や、喫煙などの影響を完全に除くことはできません。

それでも、診断後の活動量という現在の状態が、その後10年以上の死亡率と並んで現れました。

 

診断を受けた瞬間、多くの人は立ち止まります。

それは自然な反応です。

しかし、その後の時間の中で、再び歩き始める人がいます。

その歩幅は小さいかもしれませんが、長い追跡のなかで、生存曲線の傾きに重なっていました。

 

体を動かすことが許されているのかという迷い。

その問いに、この研究は断定的な答えを示していません。

ただ、動き続けていた人たちの線が、わずかに低い位置にあったという事実を残しています。

 

同じ診断を受けても、その後の曲線は一つではありません。

その分かれ目は、治療の外側にある時間の使い方にも置かれているのかもしれません。

 

参考文献:

Rees-Punia E, Teras LR, Newton CC, et al. Leisure-Time Physical Activity and Cancer Mortality Among Cancer Survivors. JAMA Netw Open. 2026;9(2):e2556971. Published 2026 Feb 2. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.56971

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。