ハクジラ類の閉経の進化

地球上で閉経が確認されているのは人間といくつかのハクジラ類だけなのだそうです。

これにはシャチやイルカなどが含まれ、彼らは長い寿命を持ちながら、繁殖活動はその寿命よりずっと前に終了します。

このような現象が複数のハクジラ種において独立して進化した事実は、科学者たちにとって大きな謎となっていました。

一般的に、動物はできるだけ長く繁殖を続けることで遺伝子を次世代に伝えるチャンスを大きくします。

しかし、閉経が進化したハクジラ類では、繁殖期間を延長することなく、寿命だけが延びるという現象が確認されています。

これは「長生きすることで、より多くの世代にわたって子孫の成長を支える」という新たな生存戦略かもしれません。

研究によると、閉経したハクジラの雌は、自身の繁殖活動を終えた後も生き続けることで、子や孫との時間をより多く共有し、彼らの生存と繁栄を支えることができます。

これは、特に資源が限られている環境下では、経験豊富な個体が若い世代へ知識を伝え、群れ全体の生存率を向上させることに貢献していると考えられます。

閉経が進化した背景には、それぞれのハクジラ類が持つ独自の社会構造が深く関与しています。

例えば、シャチの社会では、年配の雌が成熟した子供たちを支援し続けることで、彼らの生存率を高める役割を果たしています。

このように、閉経は単なる生理現象ではなく、種の社会的な生態系と密接に結びついて進化してきたのです。

これらの発見は、閉経という現象が単に個体の老化の一部ではなく、特定の生態学的ニーズや社会的構造に適応するために進化した可能性があることを示唆しています。

人間とハクジラ類の研究を通じて、閉経がどのようにして進化的な利益をもたらすのかを理解することは、進化生物学だけでなく、生態学や行動科学においても重要な意味を持ちます。

このように、「ハクジラ類における閉経の進化」は、私たちが自然界の不思議を解き明かす手がかりとなるだけでなく、生物としての私たち自身を理解する上でも貴重な洞察を与えてくれます。

自然の中で進化したさまざまな戦略を学ぶことで、より豊かな生物多様性の理解につながるでしょう。

  

元論文:

Ellis S, Franks DW, Nielsen MLK, Weiss MN, Croft DP. The evolution of menopause in toothed whales. Nature. 2024;627(8004):579-585. doi:10.1038/s41586-024-07159-9

 

西田幾多郎「善の研究」

西田幾多郎の「善の研究」は青空文庫で読むことができます。

読むことはできますが、内容が深すぎてハードルが高く、何度も挫折してしまっているのも事実です。

そんなこんなで、私の読書メモから少しずつ。

(ブログを備忘録がわりにしてしまって、すみません。笑)

まず、「純粋経験」とは何でしょう。私たちの日常とどのようにつながっているのでしょうか。

純粋経験は、まだ何の枠にもはまっていない、生の経験を指します。

言葉にされる前の感覚や感情、これが純粋経験です。

私たちが呼吸をするように、意識せずとも感じ取っている世界そのものが、実は純粋経験の連続であると西田は見ています。

この経験が、知識や言語によって染められる前の、最も原初的な状態が、彼の追求する哲学の出発点です。

次に、この純粋経験を通じて自己を発見する過程があります。

西田にとって自己認識は、外部の物事だけでなく、内部の深淵に目を向けることから始まります。

これは、自分自身が何者であるかを深く掘り下げ、自己と世界との関係を見つめ直す作業です。

この自己発見が、彼のいう善への道を照らします。

また、西田は「場所」という概念にも注目します。

彼によると、すべての存在は「場所」を持ち、その場所が各存在の特性を決定づけています。

この場所は物理的な位置だけでなく、存在が実現される背景全体を意味します。

ここにおいて、私たちは自らの立つ場所を自覚することで、より良い生き方を選択することが可能になります。

善の追求においては、これらの認識を生かし、内面の調和と外界との調和を模索します。

西田は、個々人の内面における平和が外界の平和へとつながると説いています。

これは、個人が自己と向き合い、その結果として周囲の世界にも好影響を与えるという考え方です。

最後に、西田の思想における宗教の役割です。

彼は宗教が持つ経験的側面、つまり純粋経験と重なる部分に着目しました。

宗教的な経験は、しばしば私たちを超越的な何かにつなげ、それがまた新たな認識をもたらします。

この点で、西田の哲学は単なる学問の枠を超え、生の経験そのものに根ざした実践的な知恵へと誘います。

西田幾多郎の哲学は、純粋経験から自己を見つめ、自らの立ち位置を確かめ、真の善を追求する旅路へと私たちを導いてくれるのです。

 

歩行パターンで睡眠の質がわかる

今回は「歩行パターンから読み解く睡眠の質」という話題についてです。

最近、ある研究が睡眠と歩行の2つの関係性に着目し、面白い発見をしました。

研究チームは、睡眠の質が人の歩き方にどのように影響するかを調べるために、機械学習技術を駆使しました。

参加者たちは、18歳から36歳の範囲で、様々な背景を持つ123人の成人でした。

彼らはまず、過去24時間の活動に関する質問に答え、ピッツバーグ睡眠質指標による睡眠の質の評価を受けました。

その後、歩行パターンを詳細に分析するために、身体のさまざまな部位に加速度センサーを装着し、歩行テストを受けました。

その結果が、興味深いのです。

歩行パターン、特に歩行を開始する時の骨盤の傾きや腰椎の回転運動の範囲から、睡眠の質が予測できることがわかったのでした。

具体的には、睡眠の質が低いとされる人々は、歩行の開始時や方向転換をした後の歩き始めで、骨盤の傾きにあまり変化が見られず、一定の歩行速度を維持するのが難しいことがわかりました。

睡眠の質と身体の動きには深い関係があるということですね。

確かに、よく眠れなかった当直明けに「フラフラしてる~」とよく言っていましたが、比喩などではなく、実際に足にきていたようです。

「寝不足は足腰にくる」というのは本当だったんですね。

睡眠の質の低下は、ストレスや不安、健康問題、睡眠環境の質の低さ、そして過度のカフェイン摂取や就寝前のスクリーンタイムなどの生活習慣に起因することが多いです。

これらの問題は、心血管疾患、肥満、糖尿病、精神健康障害といった深刻な健康問題を引き起こすリスクを増大させます。

しかし、この研究はさらに一歩進んで、睡眠が不十分な夜を過ごすと、翌日の歩行パターンに微妙な変化が現れることを明らかにしました。

これは、特に若年成人の間ではあまり認識されていなかった現象です。

また、歩行パターンの分析を通じて、睡眠の質の問題を早期に発見し、介入するようになってくるかも知れませんね。

将来的には、カメラの前を通ったら、「よく眠れていないですね!」とか表示されたり。

私たちの何気ない歩き方が、実は睡眠の質の鏡であったわけです。

 

元論文:

Martin J, Huang H, Johnson R, et al. Association between Self-reported Sleep Quality and Single-task Gait in Young Adults: A Study Using Machine Learning. Sleep Sci. 2023;16(4):e399-e407. Published 2023 Nov 22. doi:10.1055/s-0043-1776748

 

日食予測の進化

日食の予測という進化の物語は、単なる科学の進歩を超え、人間の好奇心と知識への飽くなき追求を映し出すものです。

紀元前のメソポタミアでは、日食は不吉な前兆とされ、王様たちの運命に直結していたと言われています。

しかし、この不吉な現象を予測しようとする試みは、天文学という科学の萌芽を育む土壌となりました。

バビロニアの神官たちは、星々の動きを記録し、日食が周期的に起こることを見出しました。

こうして、天体の周期を知ることが、彼らのリーダーシップを支える知識となったのです。

時は流れ、1715年のロンドン、エドモンド・ハレーは、その科学的理解に一石を投じました。

彼は日食を予測し、その結果を広く公表することで、天体現象の恐怖を和らげようとしました。

ハレーは「サロス」と呼ばれる周期を用いて、18年ごとに似た条件で日食が再発することを説明しました。

このことは、天文学が一般市民にも理解されるきっかけとなりました。

科学の進歩は、ただ記録をつけるだけから、宇宙の法則を解明しようとする試みへと変わりました。

ニュートンの重力理論が発表されると、ハレーはその理論を使って月の軌道をより正確に計算し、日食の予測に役立てました。

こうして科学は、宇宙の神秘に光を当て、天体現象の理解を深めていったのです。

そして今日、NASAのような機関では、太陽系ダイナミクスグループが宇宙の精密な運行を計算し、月や他の天体の位置を極めて正確に把握しています。

この技術は、日食の予知だけでなく、宇宙探査の計画にも不可欠です。

こうした進歩は、かつての不確かな予測から、精度の高い科学へと進化したことを示しています。

このようにして、日食予知の技術は千年を超える歳月を経て、恐怖の源から知識の光へと変わりました。

それは人類が自然現象の理解を深め、未知への恐れを知識という力で克服してきた証です。

日食のたびに、私たちは宇宙のリズムを感じ取り、その一部として生きていることを実感することになります。

 

三体問題と科学的探求

宇宙は古くから人類の想像力をかき立ててきました。

その中でも、最近では「三体問題」というテーマが、私たちの知的好奇心に火をつけています。

この問題は、天体の運動を数学的に予測する際の難題の一つで、1687年にアイザック・ニュートンが万有引力の法則を発表して以来、科学者たちを悩ませ続けている問題です。

この三体問題がなぜそんなにも人々を魅了するのでしょうか。

まず、三体問題はその本質的な複雑さから、科学と数学の界隈で大きな関心を集めてきました。

ニュートンの法則は二体間の運動を見事に説明できますが、第三の体が加わると、予測可能な軌道計算が突然、非常に困難なものに変わります。

これは、三つの天体がお互いに及ぼす重力の影響が複雑に絡み合うためで、初期条件を少し変えるだけで、全く異なる結果が生まれることがあります。

この性質は「カオス理論」の一例であり、微細な変化が大きな影響を及ぼす「バタフライ効果」にも似ています。

三体問題に対する科学者たちのアプローチは、時代を通じて進化してきました。

歴史上、ラグランジュやポアンカレなどの数学者がこの問題に新たな視点をもたらし、数学技術の発展に貢献しました。

そして今日、コンピュータの計算能力の進歩により、科学者たちはこの古典的な問題に新たな解を見つけ出すことに成功しています。

具体的には、三体が取りうる特定の安定した軌道配置を発見し、これらの軌道がニュートンの法則の枠組み内でどのように機能するかを理解し始めています。

しかし、三体問題の魅力は、その科学的な側面だけに留まりません。

最近では、NetflixのSFシリーズを通じて、この問題は科学コミュニティの外にも広く知られるようになりました。

このシリーズでは、三つの太陽を持つ架空の世界が舞台となり、三体問題がもたらす不安定さや予測不可能性が、物語の中で巧妙に描かれています。

こうした作品を通じて、一般の人々も宇宙の不思議や科学的探求の興奮を共有できるようになりました。

さらに、三体問題への取り組みは、実際の宇宙探査においても極めて重要です。

例えば、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が利用しているラグランジュ点は、三体問題の概念から派生したもので、宇宙船が太陽と地球の間で安定した位置を保つことを可能にしています。

これは、燃料消費を抑え、長期間にわたる探査ミッションを実現するための鍵となります。

三体問題は、科学者たちの継続的な努力によって、徐々にその謎が解き明かされつつありますが、同時に、我々の想像力をかき立て、未知への探求心を刺激し続けています。

それは私たちの世界観を形成し、宇宙の神秘に対する深い敬意を育むものです。

 

 

感情を表す言葉

「名前が体を表す」という言葉は、人の名前がその人の特性や性格、時には運命までを象徴していることを意味するものです。

この言葉は、名前が持つ象徴性やイメージが、その人の身体的または精神的特徴に反映されるという考え方に基づいています。

同様に、「ある感情」についても、その感情をどのように捉え、どのように名付けるかによって、その本質が大きく変わってきます。

今回、紹介するお話は「恋愛感情」についての考察です。

恋愛は、映画や小説、歌の中で様々に表現されてきました。

例えば、イギリスでよく使われる「holiday romance」という言葉があります。

この言葉は、休暇中に生まれた短期間の恋愛関係を指し、その期間限定の特性を示唆しています。

一方で、この用語があまり普及していないアメリカでは、同じような関係性でも、もっと深刻で、長期間にわたるものと解釈されがちです。

言葉は、私たちが経験する感情や関係性を解釈するフレームワークを提供します。

また、恋愛に対する言葉の多様性は、その感情をより豊かに、または狭義に捉えることを可能にします。

ドイツ語には「eintagsliebe」という言葉があり、直訳すると「一日の恋」となります。

この言葉は、短くも熱烈な関係を示し、その一時性を美しく表現しています。

さらに、「Comet lovers」や「holibae」といった言葉は、恋愛の異なる形態を捉え、それぞれ独自の関係性のあり方を示しています。

polyamoryにおける語彙の拡張もあります。

従来のmonogamy(一夫一妻制)の関係性では見過ごされがちな、異なる種類のパートナーシップを区別するために、新しい用語が生み出されています。

その用語によって、関係性の多様性を認識し、それぞれに適した形での関わり方を模索することが可能になります。

さらに、「Conceptual tourism」という考え方は、私たちが自分自身や周囲の世界をどのように理解するかに新たな視点を提供します。

たとえば、ある高校生がクラスメートのことを「かわいいな」と感じる時、その感情を「好き」とも「ただの憧れ」とも捉えることができます。

このとき、「好き」という言葉を使うか、「憧れ」という言葉を使うかによって、その感情の意味や今後の行動が変わってきます。

「Conceptual tourism」とは、このように、自分の感じたことに対して、異なる言葉や概念を当てはめてみることです。

それによって、自分の感情やその状況を異なる角度から見ることができ、新たな発見や理解が得られるようになります。

これは、恋愛だけでなく、日常生活のあらゆる面において有益なスキルと言えるでしょう。

このように、言葉とは、単にコミュニケーションの手段だけではなく、私たちの感情や関係性を形作り、解釈するための鍵となります。

 

元サイト:

https://theconversation.com/are-you-really-in-love-how-expanding-your-love-lexicon-can-change-your-relationships-and-how-you-see-yourself-222480

 

 

 

チョムスキーのメッセージ

ノーム・チョムスキーは1928年生まれのアメリカの言語学者で、マサチューセッツ工科大学の教授を長年務めました。

彼は生成文法理論を提唱し、人間が生まれながらにして持っている「言語を学ぶ能力」についての研究で知られています。

チョムスキーは、世界中の異なる言語に共通する文法のルールが存在することから、言語能力は生得的だと考えています。

赤ちゃんが迅速に言語を学ぶ現象もその根拠です。

また、チョムスキーは政治批評家としても活動しており、メディアや政治権力に対する独自の批判的見解を持っています。

彼の言語学と政治の研究は広く影響を与え、多くの論争を呼んでいます。

まず、チョムスキーは、個人の運命が完全に自分の手に委ねられているという幻想について指摘します。

この考え方は自立と自己決定を重んじる現代社会に根ざしていますが、選挙が競技のように扱われ、ニュースが怒りの連続となる世界では、本当の意味で社会の進路を変えるチャンスはほとんどないと指摘しています。

私たちは参加しているような気になりますが、実際には大きな流れを変える力を持てずにいます。

次に、真の自由についての彼の見解です。

チョムスキーによれば、自由とは、アイスクリームのフレーバーを選ぶこと以上のものです。

それは、誰もが尊厳を持って生き、持続可能な地球上で共存する社会を形成する能力に他なりません。

しかし、この理想を実現するには、私たち自身が持つ権力の本質を理解し、演出された政治闘争や消費に溺れることなく、実のある行動を起こさなければなりません。

チョムスキーが指摘するのは、「市場の公正さ」や「民主主義が実際に人々の意志を反映している」と信じ込んでいることの問題点です。

私たちはこれらのシステムが持つ公平性や効率性を疑うことなく受け入れてきましたが、彼の分析によれば、現実はそれほど単純ではありません。

企業が政治に及ぼす影響力や、選挙が実質的な変化をもたらすことなく行われる「スペクタクル」としての側面が、より公正な社会の実現を阻んでいるのです。

そして、チョムスキーは私たちに「製造された満足」から目覚めることを促します。

真実や公正、可能性について私たちが抱いてきたナラティブに疑問を投げかけ、提示された世界をそのままに受け入れず、全ての人のためにより良いものを要求することです。

彼のメッセージは、ただの批判ではなく、意識的で、積極的な変化への呼びかけです。

この思想を私たちの日常生活にどのように適用できるでしょうか。

私たちは日々、情報の海を泳ぎながら、どの情報を受け入れ、どの行動を選ぶべきかを決めなければなりません。

チョムスキーの言葉を借りれば、この選択にはただの個人的な嗜好以上のものが含まれるものです。

それは、公正で持続可能な社会を築くための共同作業への参加です。

チョムスキーのメッセージは、小さな変化が積み重なって大きな違いを生むことを思い出させてくれます。

個人として、そして集団として、より良い未来を創造するための第一歩は、現状に疑問を持ち、学び、行動すること。

それはまさに、私たちが毎日行う選択の中にあります。

 

「最高の勉強法」

 

いくつになっても良い勉強法があれば知りたいものです。

この本が教えてくれるのは、いかにして効果的に学ぶかということでした。

 

 

多くの人が行っている勉強法とは、繰り返し読むこと、ノートに書き写すこと、重要なポイントにハイライトを引くことなどですね。

これらは実はあまり効果的ではないらしいです。

なぜなら、これらの方法は脳に十分な負荷をかけていないから。

学んだことを記憶に定着させるためには、脳に適度な負荷をかけることが重要らしいです。

(本音としては、この「脳に負荷をかける」ことがイヤで、勉強を遠ざけてしまうんですよね。)

では、何がいいのでしょうか?

その答えは「アクティブリコール」と「分散学習」。

アクティブリコールとは、学んだ内容を積極的に思い出そうとすること。

この方法は、脳に適度な負荷をかけ、記憶に定着しやすくします。

次に、分散学習。

これは、一度に長時間勉強するのではなく、時間を分けて復習することです。

この方法もまた、記憶の定着を助けます。

更に、学習内容に対して自分自身に質問を投げかけることも有効です。

この「自己説明効果」と呼ばれる方法は、理解を深め、記憶の定着を促します。

しかし、効果的な勉強法を知っていても、学ぶモチベーションがなければ始まりません。

そのためには、自分にとって意味のある学びを見つけること、

小さな目標を立てて達成感を味わうこと、そして何よりも、学習計画を自分で立てることが大切です。

自分自身で決めた学びは、外部から強制されたものよりも、はるかにやりがいがあり、続けやすいのです。

学習は、ただ知識を詰め込む行為ではありません。

自分自身を成長させるものです。

何か勉強のネタを見つけて、この新しい学習法を試してみるのも、良い挑戦ではないでしょうか。

 

 

ChatGPTをワトソン君に

 

診断の糸口を見つけるために、医師は患者一人ひとりの症状を聞き取り、身体所見をとり、検査を重ねて証拠集めを丁寧に行っていきます。

その様子は、まるで探偵のようでもあります。

昔から探偵にはワトソン君のような相棒が必要です。

最近、特に期待されているのが、OpenAIが開発したGPT-4のような大規模言語モデル(LLM)です。

このテクノロジーは、医療分野に革新をもたらすかもしれないと言われています。

今日は、そんな希望についてお話ししましょう。

2023年の夏、マサチューセッツ州ボストンにある2つの学術医療センターで、興味深い研究が行われました。

内科レジデントと主治医たちは、臨床推論能力の試験に参加しました。

彼らは、20の臨床ケースに基づいて、問題表現と鑑別診断を行いました。

「問題表現」とは、患者の症状や臨床データを分析し、その結果を簡潔にまとめた表現のことを指します。

言い換えると、「患者の健康状態の要約」や「症状の要点を整理した説明」ということです。

医師が患者の診断を効率的に進め、適切な治療方針を立てるために、この「問題表現」が重要な役割を果たします。

そして、同じ課題はGPT-4にも与えられました。

この研究の目的は、LLMが臨床データを問題表現にどのように統合できるかを探ることでした。

R-IDEAスコア、すなわち臨床推論文書化の4つの核心領域を評価する検証済み尺度を用いて、その能力が測定されました。

GPT-4は、主治医やレジデントを上回るスコアを獲得してしまいました。

特に、GPT-4のR-IDEAスコアの中央値は10(9-10)で、主治医が9(6-10)、レジデントが8(4-9)でした。

このデータは、GPT-4が臨床推論において人間の医師と同等、あるいはそれ以上の能力を持っていることを示しています。

しかし、全てが完璧というわけではありませんでした。

GPT-4は、診断の正確さや正しい臨床推論においては医師と同等でしたが、誤った臨床推論の事例がレジデントよりも多く見られたのでした。

この研究は、LLMは医師の代わりではなく、新たな「パートナー」として、診断と治療のプロセスを助けることができるかも知れないという可能性を示しています。

かなり賢いワトソン君の役割です。

臨床現場では、医師一人ひとりの経験、知識、直感が患者の命を救います。

GPT-4のような技術が加わることで、医師はさらに多くの情報を持って臨床判断を下すことができるようになるでしょう。

もちろん、このテクノロジーの導入には慎重な評価と、倫理的な配慮が必要ですが、その可能性は計り知れません。

未来の医療現場では、医師とAIが協力しながら、患者一人ひとりに最適な治療を提供していく風景が描かれるかもしれません。

 

元論文:

Cabral S, Restrepo D, Kanjee Z, et al. Clinical Reasoning of a Generative Artificial Intelligence Model Compared With Physicians. JAMA Intern Med. Published online April 1, 2024. doi:10.1001/jamainternmed.2024.0295

 

 

肺炎の「不適切な診断」

 

この論文のタイトルにある「Inappropriate Diagnosis of Pneumonia」をなんと訳そうかとちょっとためらいました。

直訳すると「肺炎の不適切な診断」ですが、なんだかわかりにくいですね。

ズバリ言ってしまえば、「診断が違っていた」「誤った診断」となってしまって、ちょっと物騒なお話になります。

つまり「肺炎と診断されたが、実は違っていた入院患者について」ということですね。

なかなか攻めてきました。

時々、自分たちのやっていることを批判的かつ第三者的に検証するのは、医療界にとって意義のあることだと思います。

ところで、肺炎は私たちがよく耳にする病名です。

シンプルな病名と比較して、現実はかなり複雑な様相を呈します。

今回は、米国ミシガン州の48の病院で行われた前向きコホート研究を基に、その複雑さと影響について考察してみましょう。

この研究では、2017年7月1日から2020年3月31日までの間に市中肺炎(CAP)の治療を受けた入院患者が対象となりました。

カルテをもとにした調査結果から、「不適切な診断」がされた患者は、適切な診断を受けた患者に比べて年齢が高く、認知症や発症時の意識状態がよくないことが判明しました。

こうした「不適切な診断」は、当然ですが、肺炎以外の急性疾患や慢性疾患、あるいは新規の正しい診断が遅れてしまう可能性があります。

なぜ医師はCAPを誤って診断してしまうのでしょうか?

CAPは一般的な疾患であるため、医師は利用可能な情報に基づいて判断する傾向があります。

少しでも治療を早くしたいので、手っ取り早い診断に飛びついてしまうのです。

特に高齢者や認知症、意識変化を有する患者では、他の疾患と間違えやすくなります。

たとえば、認知症のある高齢者は、自分の症状をうまく伝えられないことが多く、医師は非特異的なデータ(例えば、白血球数の上昇や単独での発熱)に基づいて肺炎の診断を下してしまうわけです。

不適切な診断の予防と、患者への影響を最小限に抑えるためには、医師がより慎重なアプローチを取る必要があります。

また、診断後も、「本当にこれでよいのか」と、治療の効果を定期的に見直し、必要に応じて診断を再評価する柔軟性が重要です。

この研究を通じて、不適切な診断のリスクを認識し、患者に最善のケアを提供するための知識と技術を深めることを肝に銘じていきたいものです。

 

元論文:

Gupta AB, Flanders SA, Petty LA, et al. Inappropriate Diagnosis of Pneumonia Among Hospitalized Adults. JAMA Intern Med. Published online March 25, 2024. doi:10.1001/jamainternmed.2024.0077