メトホルミンは世界中で広く使われている2型糖尿病の治療薬で、血糖値を安定的に下げるうえに体重増加の抑制も期待できるとされています。ただし、腎機能が低下した患者には注意が必要と考えられてきました。乳酸アシドーシスという重篤な合併症が起こる恐れがあるとされ、特に推算糸球体ろ過量(eGFR)が30 mL/min/1.73 m^2を下回る「CKDステージ4」以降は使用を控えるよう推奨されることが多かったのです。結果として、CKDが進んだ段階の糖尿病治療では、代わりにスルホニル尿素薬など他の薬剤が選ばれることがよくみられます。
一方、近年の検討では、用量調節や定期的なモニタリングを行えば、腎機能が低下した段階でもメトホルミンを安全に使える可能性があるのではないかという指摘が増えています。メトホルミンがもつ多面的な作用、例えば心血管リスクの抑制や代謝改善効果が、CKDステージ4の患者にも有益に働くのではないかと考えられるようになりました。しかし実際には、ランダム化比較試験(RCT)による厳密な検証は依然として不足していました。
このような背景を踏まえて、スコットランドで大規模な全国データを用いた観察研究が行われました。2型糖尿病と新たにCKDステージ4を迎えた4,278名のうち、すでにメトホルミンを使っていた人々が対象です。その中で、CKDステージ4に達してから6か月以内にメトホルミンをやめた群と継続した群を比較したところ、3年後の生存率は継続群が70.5%(95%信頼区間68.0–73.0)で、中止群の63.7%(同60.9–66.6)よりも高い値でした。統計モデルによる解析では、中止群の死亡リスクがやや高まる傾向が示されています(ハザード比1.26, 95%信頼区間1.10–1.44)。一方で、心血管イベント(MACE)の発症率には有意差がありませんでした。

この結果は、CKDステージ4でもメトホルミンを続けることが死亡リスクの軽減につながる可能性を示しています。とはいえ、観察研究であるため、因果関係を断定するにはさらなる検証が望まれます。ガイドラインに基づき慎重に使用を控えてきた薬を、個々の患者の腎機能やリスクと照らし合わせながら見直すきっかけになるかもしれません。将来的にはRCTなどより厳密な研究によって、より明確な根拠が築かれていくことが期待されます。
参考文献:
Lambourg EJ, Fu EL, McGurnaghan S, et al. Stopping Versus Continuing Metformin in Patients With Advanced CKD: A Nationwide Scottish Target Trial Emulation Study. Am J Kidney Dis. Published online November 7, 2024. doi:10.1053/j.ajkd.2024.08.012
