赤ワインが健康に良いという話題を耳にすることがあります。抗酸化物質であるレスベラトロールが豊富に含まれるため、過去には心疾患や老化の予防につながるという見方もありました。しかし2025年、米国医務総監(Vivek Murthy, MD)がアルコール飲料へのがんリスク表示を呼びかけ、その背景として、アルコールは喫煙や肥満に次いで米国では第3位の予防可能ながん要因だという事実が示されました。赤ワインも含めたアルコールとがんリスクとの関係は複雑ですが、近年のデータによってその実態がより明確化しています。
【方法】
これまでの研究は主に観察研究という手法で進められてきました。対象者の飲酒量や生活習慣を長期間追跡し、がん発症率や死亡率を比較する方法です。例えば米国国立がん研究所が2023年に公表した調査では、「アルコール=がんリスク」と認識している人は少数にとどまり、ワインに関してはわずか20%の人しか「がんリスクを高めるかもしれない」と回答していませんでした。一方、ワインがやや例外的にみえるような結果を示すメタ解析やコホート研究も存在し、赤ワイン特有の抗酸化成分が影響を及ぼす可能性が指摘されています。
【結果】
大手医療学会の見解によれば、アルコールは国際がん研究機関(IARC)の定義でグループ1の発がん性物質に分類されています。特に女性で1日1杯、男性で2杯を超える中等度から多量の飲酒は、口腔・咽頭・食道・肝臓・乳房・大腸など複数のがんリスクを高めるとされています。濃い飲酒習慣(週に8杯以上の女性、15杯以上の男性)は、口腔や咽頭、食道がんリスクを約5倍、乳がんリスクを61%増加させるとの報告もあります。1杯あたりの標準量はアルコール14g(ワイン5oz相当)で、飲み方の量と頻度が大きく影響します。
【考察】
では赤ワインだけが特別なのかというと、データは一貫していません。2023年に発表されたメタ解析ではワイン摂取ががんリスクに影響しないとする結果もありましたが、この種の研究には喫煙歴や経済状況、運動習慣など多くの要因が絡むため、完全に比較するのが難しい点が指摘されています。一方で赤ワインにはレスベラトロールやタンニンなどの有益成分が含まれる可能性があるという研究もあります。しかしながら現在のところ、特定の飲酒パターンが「がんリスクゼロ」という明確な結論には至っていません。
【結論】
重度の飲酒ほどリスク増大は顕著ですが、軽度から中等度の飲酒でもがんリスク上昇が示唆されています。ただし、毎日少量を飲むことがストレス軽減に役立つと感じる方もおり、一律に禁止を呼びかけることは現実的でないという議論もあります。家族歴や生活習慣、その他のがんリスク要因との兼ね合いから、自身の飲酒スタイルを慎重に判断する必要があると考えられます。科学的なデータはまだ「完全に安全」と断言する段階にありません。飲酒とがんリスクを正しく理解することで、今後は個人レベルでも予防策を検討しやすくなるとみられています。
参考文献:
Ortolá R, Sotos-Prieto M, García-Esquinas E, Galán I, Rodríguez-Artalejo F. Alcohol Consumption Patterns and Mortality Among Older Adults With Health-Related or Socioeconomic Risk Factors. JAMA Netw Open. 2024;7(8):e2424495. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.24495
