愛犬の死、残された犬はどう感じるか?

愛犬の死、残された犬はどう感じるか?

 

ペットロスに陥るのは、何も人間だけではないようです。飼い主が大切な愛犬を失ったとき、心の中には大きな穴があきます。そして、もう1頭の同居犬がいたなら、その犬もまた飼い主と同じように生活が変わってしまうことがあります。イタリアの研究チームが426人の飼い主を対象に行った調査によると、亡くなった犬の“相棒”にあたる生き残りの犬は、食欲や遊ぶ量が落ちたり、恐怖心が増えたりといった多様な行動変化を示すという結果が得られました。

 

研究では、少なくとも2頭の犬を飼育していたイタリア人の飼い主に協力を依頼し、「Mourning Dog Questionnaire(MDQ)」と呼ばれるオンラインアンケートを実施しています。解析対象となった回答者は426人にのぼり、性別や年齢だけでなく、2頭の犬がどんな関係を築いていたかも詳しく尋ねられました。「親子的なつながり」「仲の良い友人のような関係」「穏やかな同居関係」など、それぞれがどのように暮らしていたのかを評価したうえで、残された犬の行動や感情がどう変化したかを統計的にまとめています。

 

結果を見ると、「友好的」「親子的」といった強い絆で結ばれた2頭のケースほど、残された犬が食欲を落としたり、活動レベルを下げたりする可能性が高かったとされます。アンケートでは約67%の飼い主が「愛犬が以前より飼い主に注目を求めるようになった」、57%が「遊ぶ量が減った」、35%が「眠る時間が増えた」と答えています。さらに、飼い主自身の悲しみや怒りが強い場合、犬が恐怖を示す頻度も上がるというデータも示されました。これは、犬が飼い主の感情を敏感に読み取り、それに応じて不安を感じるのかもしれないと考察されています。

 

いっぽうで、亡くなった犬の遺体を実際に見せたかどうかは、残された犬の行動変化に影響しなかったとのことです。チンパンジーやゾウといった動物では死んだ個体を入念に調べたり、そばを離れないといった行動が報告されていますが、イヌ科では「遺体を見たか否か」よりも、飼い主の様子や失われた相棒との絆の強さが、行動変化に関係していると考えられます。

 

この研究は、犬が単なる「分離不安」を感じているだけなのか、それとも私たちが「悲しみ」と呼ぶような感情に近いものを抱いているのかを直接的に証明するものではありません。しかし、どちらにせよ残った犬は生活のバランスを崩しやすくなるため、飼い主自身のペットロスへの対処だけでなく、犬のケアにも心を配る必要があるというメッセージを伝えています。多頭飼育が増えている昨今、犬と暮らす人々にとって見逃せない発見といえるでしょう。犬の感情によりそい、変化を見逃さないことが、いっそう大切になってきています。

 

参考文献:

Uccheddu, S., Ronconi, L., Albertini, M. et al. Domestic dogs (Canis familiaris) grieve over the loss of a conspecific. Sci Rep 12, 1920 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-05669-y