透析患者さんのための健康ガイド:筋肉量を増やして元気に過ごそう!

透析患者さんのための健康ガイド:筋肉量を増やして元気に過ごそう!

 

血液透析を受けている方の健康管理にはさまざまな要素がありますが、その中の一つとして「筋肉量(Lean Body Mass: LBM)」が深くかかわることが指摘されています。今回ご紹介する研究では、韓国の大規模レジストリを利用して、LBM(正確には身長²で標準化したLBMI)が死亡率にどう影響するかを年齢別に調べました。結果的に、中年・高齢の方ではLBMIが低いほど死亡リスクが高まることが明らかになっています。

 

研究の概要:26,625名の長期データ

本研究は、韓国腎臓学会(KSN)の公式レジストリに登録された20歳以上の血液透析患者さん26,625名を対象に、2001年から2020年まで約20年にわたる追跡調査を行ったものです。まず、年齢を3つのグループに分けました。

  1. 20~49歳(若年層) 

  2. 50~69歳(中年層)

  3. 70歳以上(高齢層)

そのうえで、LBMI(Lean Body Mass Index)の値をもとに4つの四分位に分類しました。

  - グループ1(Q1):LBMI ≤ 15.55 

  - グループ2(Q2):15.55 < LBMI ≤ 16.52 

  - グループ3(Q3):16.52 < LBMI ≤ 17.59 

  - グループ4(Q4):LBMI > 17.59 

LBMIとは、推定された筋肉量(LBM)を身長で割り引いて算出した指標です。たとえば同じ体重でも、身長が高いほうがLBMは低めに見えることがあります。これを補正するための指標がLBMIです。

 

主な結果

 1. LBMIが最も低いグループは死亡リスクが高い

全年齢のデータをまとめて分析したところ、LBMIが一番低かったグループ1(15.55以下)では、生存率が特に低いことがわかりました。追跡期間中の死亡者数は合計で7,644名にのぼりましたが、このうちLBMIが低い方の死亡リスクは高めでした。逆に、LBMIが最も高いグループ4(17.59超)では生存率が高い傾向にありました。

2. 若い世代(20~49歳)は「糖尿病(DM)」が影響

若年層(20~49歳)の7,165名については、LBMIによる違いよりも糖尿病の有無による死亡リスクの差が顕著でした。具体的には、糖尿病をもつ若年層ではリスクが高く、LBMIの影響はそこまで大きくなかったのです。

3. 50歳以上は「LBMIの低さ」が鍵

50~69歳(13,264名)と70歳以上(6,196名)を合わせた中年・高齢層では、LBMIの低さが死亡リスクを大きく高める要因として注目されました。たとえば、70歳以上の方でLBMIが低いと、生存期間が短くなる傾向が一層強まっています。もちろん糖尿病も無視できない要因ではありますが、「筋肉量を保つこと」が予後に深く関わっていると示唆されます。

4. アルブミンの重要性

研究では血清アルブミンの値が高い人ほど、死亡リスクが低いことも明らかになりました。アルブミンは主に栄養状態や炎症状況を示す指標の一つとされており、病態や予後の把握において重要です。

5. 筋肉量の長期変化

LBMIが高い方でも、経年によって徐々に筋肉量が減少する傾向がありました。一方、低いグループでは少しずつ改善する例も見られました。こうした差は個人差も大きいですが、いずれにしても「筋肉を失わない努力」が長期的な健康を支える鍵になりそうです。

 

どのように筋肉量を維持するか

この研究結果からは、特に50歳以上の方にとっては筋肉量(LBM)の確保や維持が大切だと考えられます。血液透析中はカリウムやリンなど食事制限が多く大変ですが、次の点が大きな助けになるといわれています。

1. 栄養管理

   高タンパク質を意識した食事をはじめ、アルブミン値の維持や炎症を起こしにくい食事内容が推奨されます。専門の栄養士や医師と相談して、自分に合ったメニューを見つけることが大切です。

2. 定期的な運動 

   筋トレや有酸素運動など、できる範囲で無理のない運動を続けると、筋肉量の減少を抑えやすいといわれています。医療スタッフや理学療法士のアドバイスを取り入れながら、安全に取り組みましょう。

3. 糖尿病のコントロール 

   若年層では糖尿病が大きなリスクになっていましたが、中年・高齢層でも血糖値の乱れは筋肉量維持に悪影響を及ぼす可能性があります。医師の指導に従い、定期的な検査や食事療法で血糖コントロールを行いましょう。

 

まとめ

血液透析患者さんの長期的な健康を考えるうえで、「筋肉量を維持すること」の大切さが、今回の大規模データから改めて示されました。特に50歳以上の方では、LBMIの低さが死亡リスクに大きく関係するため、栄養管理と運動など、日々の暮らしのなかで筋力をなるべく維持する工夫が欠かせません。また、若年層でも糖尿病がある場合は油断せず、血糖コントロールに注力する必要があるようです。

 

参考文献:

Kim, JE., Yi, J., Kim, J.H. et al. The role of lean body mass in predicting mortality in hemodialysis patients across different age groups. Sci Rep 15, 2150 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-85994-0