多種多様なパターンの中から、隠された法則性を読み取り、分類する能力こそAIの優れた点だと思います。そのAIの力を使って「何に役立てるか」「何がしたいか」を突き止めることこそ、今私たちが取り組むべき大きな課題であり、醍醐味でもあります。
このようなAIの可能性を、高血圧の早期予測に活かそうとした研究があります。アメリカのBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)とイギリスのUK Biobank(UKB)による大規模な共同プロジェクトです。
血圧は、通常は血圧計で測定するものですね。しかし、この研究では心電図(ECG)のわずかな波形の差異をAIに学習させ、将来的に高血圧になるリスクを予測する「AIRE-HTN」という仕組みを開発しました。
BIDMCでは、2014年から2023年までに記録された189539人の心電図(約1163401件)をAIに学習させ、まずは高血圧の有無を分類できるモデルを構築。その後、離散時間サバイバルロス関数という手法を用いて、「5年以内にどの程度の確率で新たな高血圧が発症するか」を推定するモデルへと発展させました。テスト用の集団約19423人を対象に検証した結果、実際に新規高血圧を発症した割合(33%)をC指数0.70(95%信頼区間0.69-0.71)という精度で見分けられたことが示されています。
さらにUKBデータ(65610人分の心電図)でも同じモデルを検証し、約4年間の追跡で4%が新規高血圧と診断されましたが、C指数は同じく0.70でした。とくに重要な点は、左室肥大などの異常がない人にも適用可能で、従来の血圧や糖尿病などのリスク因子を補完し、予測精度(連続NRI)を0.32~0.44ほど向上させたことです。
さらにAIRE-HTNのスコアは、将来的な心不全や心筋梗塞、脳卒中、慢性腎臓病などのリスクとも関連があると確認されました。BIDMCの解析ではスコアが1標準偏差上がるごとに、心不全がハザード比2.60、心筋梗塞は3.13という値でリスク増加を示しています。AIが心電図の細やかな変化を見分けることで、潜在的な高血圧だけでなく、その先にある重大な合併症の可能性まで示唆しているのです。
AIの得意なパターン認識と臨床データを組み合わせることで、これまでは難しかった将来リスクを見える化できるようになってきました。「AIが見つけたサインをどう活かすか」という問いに向き合うことは、予防医療や生活習慣の改善を早めに始めるきっかけとしても大いに期待が持てます。まさに多種多様なデータの中から法則を抽出するAIの強みを、私たちが社会に役立てる形に発展させていく時代が訪れていると感じます。
参考文献:
Sau A, Barker J, Pastika L, et al. Artificial Intelligence-Enhanced Electrocardiography for Prediction of Incident Hypertension. JAMA Cardiol. Published online January 2, 2025. doi:10.1001/jamacardio.2024.4796
